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アノヒトの読書遍歴: 樋口毅宏さん(前編)

タモリ論 (新潮新書)
『タモリ論 (新潮新書)』
樋口 毅宏
新潮社
734円(税込)
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樋口毅宏さん、暗くてモテなかった中学時代にハマッたのは星新一のショートショート

2009年に小説『さらば雑司ヶ谷』で鮮烈デビューを飾り、同作中の一節がきっかけとなり今年刊行した『タモリ論』はベストセラーに。今回は、サブカル&アングラにまつわる膨大な知識と強い愛の持ち主、作家の樋口毅宏さんの読書遍歴に迫ります。

「子供の頃......何を読んでいたんだろう。とりあえず平仮名の本は読んできたはずですが、本当に思い出せないんですよね。世間の方がイメージする作家というと、『世界文学全集』とかを街の小さな本屋さんにわざわざ取り寄せてもらって、小学生くらいから愛読していて......と、思われるかもしれませんが、残念ながら僕はいくら勉強しても偏差値が38以上に上がったことがないくらい、頭が悪いものですから。勉強すればするほど成績がうなぎ下がりという問題児でした」

 記憶の中にある読書体験といえば、当時全盛期だった『週刊少年ジャンプ』と『ドラえもん』。そんな樋口さんが読書の魅力に取り憑かれ始めたのは、中学生になってからでした。

「暗くてモテない男子中学生の典型として、星新一さんにずぶずぶとハマりまして。はるか30年も前のことですが、当時は星さんが何度目かのブームを迎えていた頃で、どの書店に行ってもずらりと本が並んでいました。もちろん、手に入る文庫はすべて買って読んでいましたね。『気まぐれロボット』『ボンボンと悪夢』『午後の恐竜』『白い服の男』......。SFで社会派、現代に警鐘を鳴らすような話など、すごく僕の中にすり込まれています」

そして、星新一の偉大さをこのように語ります。

「次はこういうオチじゃないかなと想定して読んだりもしましたが、星先生はそんな子供の妄想なんかをはるかに上回るエンディングを用意してくれていて、ほんとにどれだけ頭がいい方なんだろうと思って読んでいました。実際、星先生は星製薬という会社の御曹司として生まれて、潰れかけていた会社を見事に潰したという方なんですけれども(笑)。東大の大学院在学中にお父さんの急逝で会社を継ぐものの、官僚の圧力もあったりして会社が潰れてやることもなく、ショートショートを書いていて。それが世界中で翻訳されて、恐らく1億人以上の読者がいると言われているんですよね。残念ながら一度もお会いすることはなく、星先生は71歳で亡くなられてしまいましたが、星新一のショートショートは僕の心の中で生き続けています」

 その後、高校時代には当時大ブームだった村上春樹の『ノルウェイの森』にどハマり。

「僕は昔からあまのじゃくでひねくれているので、売れているものなんかいらねー!と思っていたんです。でも、ご本人が装丁された赤と緑の表紙の上下巻を書店で見て、まぁちょっと読んでみようかなと軽い気持ちで買って読んでみたら......初めてでした。本一冊を一日で読んでしまうという体験は。その日は授業もそっちのけで上巻を読み終え、次の日の朝早くに下巻を買いに行って、それも一日で読んだんです。本当にハマッてしまって、その後デビュー作の『風の歌を聴け』から遡って全部読みました。今でも読み返したりするんですが、あまり影響を受けすぎないようにというのは心がけています。というのも、『ノルウェイの森』の一大ブームがあったあと、普通の音楽雑誌やエッセイ、コラムなどでも、文章の中に「やれやれ」って使われていたり、村上春樹さんの影響を受けた人が雨後の竹の子のごとくいらっしゃったんですよね。僕も影響を受けやすい人間なので、そういうのは気をつけなきゃと思っています。とても真似できないんですけどね」

後編では、樋口さんが編集者時代に手がけた本の話、そして賛否両論を巻き起こした『タモリ論』についてもうかがいます。

(プロフィール)
樋口毅宏
ひぐち・たけひろ/1971年東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。作家。出版社勤務を経て、2009年『さらば雑司ヶ谷』で小説家デビュー。著者に『さらば雑司ヶ谷R.I.P.』『日本のセックス』『民宿雪国』『テロルのすべて』『二十五の瞳』『ルック・バック・イン・アンガー』『タモリ論』がある。

(クレジット)
取材・文=根本美保子

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