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アノヒトの読書遍歴 谷津矢車さん(前編)

洛中洛外画狂伝: 狩野永徳
『洛中洛外画狂伝: 狩野永徳』
谷津 矢車
学研パブリッシング
1,404円(税込)
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2012年に第18回歴史群像大賞優秀賞獲得し、今年の3月15日に歴史小説『洛中洛外画狂伝』を上梓した戯作者(小説家)・谷津矢車さん。そんな谷津さんに、幼少期の読書体験や物語にハマったキッカケを聞いてみました。

子どもの頃は小説とか絵本よりも図鑑ばかり読んでいました。祖母がそういったものが好きで、僕によく買い与えてくれたんです。特に覚えているのが、学研の『原色図鑑』という絵が沢山ある図鑑のシリーズ。それを一日中読んでいるような、おとなしい子どもだったと思います。恐竜や鳥の図鑑も大好きで、恐竜の名前をひとつずつ覚えていったり、散歩に出たときなどに鳥を見つけると「これが○○という鳥だよ!」って人に教えるのが楽しみでした。

――そんな図鑑大好きだった谷津さんが、物語にハマったきっかけは?

フィクションの世界にハマったきっかけは『けんぼうは1年生』という絵本でした。ちょうど小学校1年生の頃に読んだのですが、絵本と侮ってはいけない素敵な本で、思わず涙しましたね。父と息子を中心として描かれている話で、息子が毎日お父さんの帰り道に迎えに来る。そんな幸せな毎日が続いていたんですが、ある日けんぼうが車に轢かれて死んでしまうんです。それから2年くらい経ったある日、夕方の道を子どもが歩いているのを父親が見て、"けんぼうが生きていたら1年生だったな"と夕日の中佇むというお話です。

――それは大人でも感動してしまいそうです。

そうなんです。また、子どものときと大人になってからでは、読んだ時の感覚が全然違うんです。子どものときはけんぼうの視点で見ているんですね、大好きなお父さんを迎えに行って死ぬというのは大きな出来事なので、それ自体に衝撃を受けちゃうんですけど...。今の僕が読むと、むしろお父さんの子どもを失った悲しみ、今目の前に子どもがいないという状況に、言い知れぬ悲しさが出てきまして、見え方が全然違うんだなと思いました。人間の複雑さを最初に教えてくれた本です。

――26歳という異例の若さで歴史小説を上梓され、作家デビューを果たした谷津さん。歴
史小説の魅力に取り憑かれたのは、小学校3年生の時に出会った『鬼平犯科帳』がキッカ
ケとのこと。

祖父母がすごい本好きだったんですね。"漫画だったら1冊しか買ってあげないけど、活字の本ならいくらでも買ってあげる"という教育的な祖父母だったんです。それでよくつれられて本屋に行っていたのですが、僕が子どもの頃って大岡越前とか水戸黄門が夕方4時からテレビで放送されていた時期。子どもだから小説の棚を見ていても何もわからなかったのですが、時代物は興味があって、それで手にとったのが『鬼平犯科帳』でした。

――かなり渋い小学3年生ですね...。

鬼平が夜道を歩いていて刺客に襲われるシーンがあるんですが、このまま振り返ると切られてしまうから少し走ってから振り返って切るという描写があるんです。それを読んだ瞬間、「カッコいい! 鬼平すごい!」って子どもながらにいぶし銀な魅力に惹かれてしまいまして...。(笑)それ以来、ずっと読み続けています。まさに、歴史小説の魅力に取り憑かれた瞬間でした。

次回は、物語を書く上で影響を受けた本、歴史小説の魅力についてお聞きします。お楽しみに!

《プロフィール》
谷津矢車(やつ・やぐるま)
1986年生まれ。東京都出身の戯作者(小説家)。中学生の頃から小説を書きはじめ、2012年に第18回歴史群像大賞優秀賞獲得。今年の3月15日に小説デビュー作『洛中洛外画狂伝』を上梓した。小説の執筆だけでなく、原案提供も行っている。

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