戦国時代の草食系男子? 「木偶の坊」と揶揄された武将・成田長親

のぼうの城 上 (小学館文庫)
『のぼうの城 上 (小学館文庫)』
和田 竜
小学館
494円(税込)
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 ゲーム、コミック、ドラマなどますます戦国ブームに拍車がかかる近年。本書は今までの強いイメージがある戦国武将とはまったく異なるテイストの「ダメな」武将を主人公とした小説です。第139回直木賞にノミネートされ発行部数40万部を越えるベストセラーを記録し、11月2日には映画が公開予定。主人公の成田長親(なりたながちか)役を演じるのは「陰陽師」以来の主演となる野村萬斎さん。そのダメっぷりを存分に発揮した演技にも注目です。

 時代は、豊臣秀吉が天下をおさめる激動の戦国時代。そんな中、「のぼう様」と呼ばれる武将がいました。ただでかいだけで何をするにも役に立たない"木偶の坊"からつけられ、部下や領民たちまでもがその名を呼び揶揄していました。政治や争いごとに一切興味を示さず、好きな百姓仕事に日々従事します。しかし、その不器用さゆえに手伝わせると農作物を駄目にしてしまい、民からは煙たがれる存在でありました。そんな役に立たない「のぼう様」が城代である父・泰季の代わりに石田三成率いる秀吉軍から城を守るために立ち上がることになるのです。

 主人公の長親のその出で立ちは現代で言う「草食系男子」。しかし、馬鹿にされてもいっさい気にすることもなく、戦国武将らしからぬその不器用さとのんびりした性格で領民や仲間から心配される姿がなんとも愛らしく感じられます。

 脚本家でもある作者の和田竜により歴史的事実を文献と想像力で細かい描写も忠実に再現し、さらには実際にいた登場人物も個性豊かに描かれています。これといった能力を持たない長親が絶体絶命に置かれた城を一体どう守って行くのか。まるでフィクションのように最後まで展開が読めないストーリーは見物です。

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