山中教授がノーベル賞も、科学の進歩・文明の発展につきまとう落とし穴

すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)
『すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)』
ハックスリー
講談社
669円(税込)
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 京都大学・山中伸弥氏のノーベル医学生理学賞決定を機に、ますます注目度が増しているiPS細胞の再生医療への応用研究。多くのメディアが医学進歩への期待を報じていますが、今まで不可能であったことが可能になるということは、危惧しなければならない事象も生まれてきます。テクノロジーの発展は自然の摂理からは反するものであり、それを活用していくには優れた倫理観が必要になります。

 この文明の発展につきまとう人類の課題について、まるで未来に赴き自らの目で確かめて書いたかのようなSF小説があります。『すばらしい新世界』と名付けられたその小説は、文学者であり生物学者でもあるオルダス・ハックスリーが、とどまることを知らぬ文明進歩によって行き着いた"すばらしい世界"は人間自らの尊厳を見失いかねない世界であるという危険性を描いたものです。

 ハックスリーがこの小説を世に出したのは今からちょうど80年前、日本はまだ昭和7年であるというのだから驚きです。人工授精やフリーセックス、条件反射的教育によって管理された階級社会が主なテーマとして書かれている点、この作品が現代の実相を写実的に描き出した写実小説と錯覚してしまうほどリアルです。「人は無償で何かを手に入れることはできない。」と作中人物は口にしていますが、すべて犠牲なしの進歩などあり得なく、必ず問題や代償が付きまとうということをこの言葉は示唆しています。

 映画『ターミネーター』のように、文明進歩が人類の脅威になってしまうような未来も、おとぎ話ではなくなって来ています。機械・科学を用いた文明の発達は必ずしも人間の尊厳と幸福を尊重する方向に結びつかず、使い方を間違えばたちまち一切の人間的価値と尊厳を喪失しかねないのは、震災による原発事故や戦争の歴史から私たちがすでに学んでいることです。

 順調に発展を遂げている私たちの社会ではありますが、時には立ち止まり、人間がどうあるべきかを考える時間が必要なのではないでしょうか。

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