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アノヒトの読書遍歴 小倉淳さん(前編)

少年時代の愛読書は落語のネタ本。
大人になってからは司馬遼太郎が「箸休め」ならぬ「読み休め」


 小さい頃の愛読書は落語のネタ本だったというフリーアナウンサーで、江戸川大学教授の小倉淳さん。当時小学校の高学年で周囲の友人には全く理解されなかったそうですが、落語家のネタを覚えてしまうほど何度も読み返したそうです。

 「落語は聞くのも見るのも好きだったのですが、ネタを本で読むのが大好きでした。読んだ後、テレビで有名な落語家がそのネタをやっているのを見て『あぁ、こうやってこのネタは表現するのか』と感動していましたね。同じネタでも語り手の落語家さんが違うことで全く違うように感じるのも魅力の一つ。字で書かれていたものが、誰かの口を通して改めて表現されると、自分が頭の中で想像していたものを遥かに越えた面白さと出会うことができたんです」(小倉さん)

 落語のネタ本は何度も読み返したという小倉さんですが、基本的には同じ本を読み返すことはほとんどないとも話す小倉さん。読書に求めているのは「新鮮さ」なんだそうです。

 「本って、僕なんかじゃ考えられないような展開だったり、自分の身近にいるような人間が登場人物となって、作家の方の筆一つでとても楽しそうに踊るじゃないですか。これにとてもドキドキさせられるんです。だからそのワクワク感を期待している以上、同じ本を二回は読まないんですよね。その展開を知ってしまっているとどうも自分の中で盛り上がらなくて。いつも新たに出会う本には、自分を未知の世界に連れて行ってくれるような新鮮さを求めているんだと思います」

 そんな小倉さんが最近ハマった本は池井戸潤さんの作品。また、先日発表された本屋大賞を受賞したあの作品もお気に入りの一冊だとか。

 「池井戸さんの本はとても気に入っています。特に『下町ロケット』なんて、電車の中で読んでいてついつい涙ぐみそうになり、花粉症のふりしてなんとかその場をごまかしました(笑)。本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの『舟を編む』も最近読んだ中ではお気に入りの一冊。読み進めるほど次の章が気になって気になって、むさぼるように読みましたよ。辞書を出版するという、僕らからするととてつもなく大変そうで、全く想像もつかないような仕事がとても興味深く書かれていて、辞書を買ってみようかなと思うほどでした」

 様々なジャンルの本を読む小倉さんですが、読書のホームとなっている作家が司馬遼太郎。どんな作品を読んでいても、司馬遼太郎に戻ってくると落ち着くと言います。

 「司馬さんはどれを読んでもハズれがないんですよね。なので大変失礼なのですが"箸休め"ならぬ"読み休め"として読ませていただいています。最近の本はまるでジェットコースターみたいに高い位置からかけ降りるようなスピード感のある作品が多いですよね。一方で司馬さんの本を読んでいると、芝生で気持ちのいい風を感じながら、世間を見渡しているような気持ちになるんです」

 ただ、常に本を読んでいるのかというとそうではないとのこと。読書のペースにはとても波があるのだとか。

 「過食症と拒食症ってありますよね。僕、『過読症』の時期と『拒読症』の時期があるんです。『過読症』の時には一度に3、4冊を平行して読んでいるのですが、『拒読症』の時は台本すら読みたくないことも。どういうサイクルなのか分からないんですが、とても波があります。『また本が読みたいな』と感じる瞬間は、人から本を勧められた時がきっかけだったりしますね」

 次回は小倉さんのアナウンサーや大学教授というお仕事とご自身の読書スタイルについてお聞きします。お楽しみに!

≪プロフィール≫
小倉淳(おぐら・じゅん)
1958年、神奈川県生まれ。成城大学卒業後日本テレビに入社。「箱根駅伝」や「アメリカ横断ウルトラクイズ」などでアナウンサーを務める。独立後もフリーとして多くの番組に出演。2011年4月より江戸川大学メディアコミュニケーション学部の教授として教壇にも立つ。株式会社VOICE-CUBE取締役。

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