ミステリー番付で初の三冠達成 『二流小説家』の魅力

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
『二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』
デイヴィッド・ゴードン
早川書房
2,052円(税込)
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 今年も、『このミステリーがすごい!』(宝島社)、『週刊文春ミステリーベスト10』(文藝春秋)、『ミステリが読みたい!』(早川書房)のミステリー本ランキングが出揃いました。海外部門ランキングでは、デヴィッド・ゴードンの『二流小説家』が、いずれも1位を受賞。ミステリーランキング初の三冠を達成しました。

 本書はニューヨークに住む著者のデビュー作。本国では、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞にノミネートされました。

 日本の書評家たちがこのミステリーを手放しで、今年のベスト1に推した理由はいったい何なのでしょう?

 主人公ハリーはポルノ小説や安手のミステリーなどで、なんとか生計を立てている中年男。自分を自嘲しながら「二流小説家」に徹することもできず、心の底では詩や文学の力を信じています。よき理解者であった彼女にも、愛想を尽かされ、誰もが納得のダメ男ぶり。そんなある日、彼に獄中の連続猟奇殺人犯から、告白本の依頼が舞い込んで......。

 ハリーは、事件を解決する颯爽としたヒーローとは異なるキャラクターです。警察の権力に屈さず、凶悪犯と対峙する、なんていうタイプではなく、常に負け犬的自嘲を忘れません。例えば、不条理な警察の取調べにも、自分の書いたハードボイルド小説の主人公ならこう言うだろうとは思っても、実際には言えない。シャーロック・ホームズなら、ポアロなら、コロンボなら、こうやって捜査をして、犯人を追い詰めるだろうと想像しますが、「現実はそんなもんじゃない」とつぶやくのです。読者はそれを読み、思わず笑い、「そんなにうまくいくはずないよね」と同調せずにはいられません。

 主人公の徹底した、愛すべき負け犬ぶりが魅力の本書。笑えて、心にしみて、「ハラハラ」と「スッキリ」も味わえる、満足感いっぱいの一冊といえるでしょう。

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