教師の椅子の下に爆弾を設置、破天荒だったスティーブ・ジョブズ氏の人生

スティーブ・ジョブズ I
『スティーブ・ジョブズ I』
ウォルター・アイザックソン
講談社
2,052円(税込)
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 2011年10月4日、iPhone 5ではなくiPhone 4Sが発表されました。5へ期待を寄せた全世界のAppleファンが落胆の声を上げた、翌5日、その声は一瞬にして悲しみの涙に塗り替えられました。一部では「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」との異名を取る、スティーブ・ジョブズ氏の死。銀座のAppleストア前には溢れんばかりの献花とメッセージカード、そしてひと口かじり取りApple社のロゴに似せたリンゴの果実が幾つも並んでいました。

 インターネット上では「4S」は「for Steve」を意図しているという都市伝説が広まり、追悼の意を示すための「4S」予約が加速する――、私たちは今、生ける伝説が、その死によって神格化されて行く過程を目にするという、稀有な体験をしているのではないでしょうか。

 そんななかで、世界同時発売を目指した、彼の評伝「スティーブ・ジョブズ」(ウォルター・アイザックソン著・井口耕二訳/講談社/1995円)。全2巻のうち、10月24日に発売を迎えた第1巻は、評伝の初版としては異例の10万部が用意され、発売同日にはさらに20万部の増刷が決定しました。

 取材嫌いで有名な彼が、取材に全面協力した同書。なぜ、2年あまりにわたって50回ものインタビューに応じたのかという著者の問いに対する彼の答は「僕のことを子どもたちに知ってほしかった。父親らしいことをあまりしてやれなかったけど、どうしてそうだったのかも知ってほしいし、そのあいだ、僕がなにをしていたのかも知っておいてほしい。そう思ったんだ」。

 1巻は、幼少期から始まり、アップルコンピュータ設立、同社解任とピクサーでの成功までが綴られています。子どもたちに知ってほしい、良い点も悪い点も含めて全てを。その想いを証明するかのように、本文では彼の光の部分だけではなく、むしろその裏側にある人柄についても詳細に語られています。

 小学校の頃には女性教師の椅子の下に爆薬をしかけ、引きつけを起こさせた、という度が過ぎたいたずらに始まり、マリファナやLSD、ハシシや断眠による幻覚体験、果食主義の思想に基づく酷い体臭、便器に足を突っ込んで水を流すという独特のストレス解消法や、23歳の時にくだした子どもを捨てるという選択......。

 果たして日本社会に彼が生きていたのならば、Apple社は生まれていたでしょうか。ジェットコースターのような人生を生きた、捉えどころのない、しかし一方で強烈なカリスマ性を備えた彼の姿が浮かび上がる評伝。翻訳物に起こりがちな表現の違和感もなく、読みやすくまとめられています。2巻で語られる円熟期の彼の姿を、期待と共に待ちたいところです。

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