連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】第27回 『君の名は。』『美女と野獣』・・・。2017年上半期ヒット作を惹句で振り返る。

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 今年に入って我が国の映画産業は、なかなか調子が良い。正月から6月末までに公開された上半期作品を見ても、興行収入50億円を超える大ヒット作が、実に6作品。昨年はこれが4作品だった。その顔ぶれを見ると、6本中4本がアニメ映画で、残る2本のうち1本は、かつてアニメ化もされた作品の実写リメイクだったりする。しかもその大半がファミリー・ターゲットの作品であるあたり、いささか偏りを感じないでもないが、とにもかくにも大ヒット作が多いのは良いことだ。その今年上半期の大ヒット作6本を、今回は惹句(コピー)で振り返ってみようという試みである。


●第1位「君の名は。」、歴代4位の250.3億円。

 今さらながら・・という気がしないでもないが、今年に入っても上映が続行されていたことから、この作品も2017年上半期作品としてカウントするのである。その興行収入は250.3億円。これは日本映画、外国映画歴代第4位、日本映画だけだと『千と千尋の神隠し』(興収308億円)に次ぐ歴代第2位の成績となるから大したもんだ。
 その『君の名は。』の宣伝惹句がこれ。もはや懐かしい感じさえする。

 「まだ会ったことのない君を、探している」

 映画を見た後でこの惹句を見ると、「そうそう、こういう映画」と納得出来る、とてもストレートで、それでいて謎めいたテイストが秀逸な惹句だ。もうひとつこの作品の惹句で挙げたいのが、新海誠監督の存在を前面に打ち出したこの惹句だ。これは、オファイシャルガイドブックに使われている。

 「新海誠という才能に出会う夏−」

 今となっては「こういう惹句で映画を宣伝したから大ヒットした」みたいな論調になってしまうが、この2つの惹句が作品と監督、それぞれの「なんだろう?」という疑問に対する回答を導く、水先案内人になったことは事実である。


●『美女と野獣』123.4億円、『ファンタスティック・ビースト−』73.4億円。

 純粋に今年上半期からスタートした作品という意味でのトップは、ディズニーの『美女と野獣』が興収123.4億円(調査時点で。最終的には123.7億円に達するだろう)と大台を超える大ヒットとなった。その『美女と野獣』の惹句。

 「あの『美女と野獣』を−ディズニーがついに完全実写化!」

 そしてこの正月に公開され、興収73.4億円をものにした「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の惹句がこれ。

 「J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』新シリーズ!」

 うーん・・・・なんというか、80年代後半から90年代にかけて、世に溢れかえった「●●監督最新作!!」「●●シリーズ最高傑作!!」タイプの惹句を連想するなあ・・というか、そのものズバリじゃないか(笑)。

 『美女と野獣』の場合、ディズニーという会社が健全な娯楽企業であることが世間に浸透しており、その上で以前アニメになった『美女と野獣』の実写版であることを打ちだしている。また『ファンタビ・・』の場合も『ハリー・ポッター』シリーズが大ヒットしたことを承知の上で、その原作者による新作であることを訴えている。つまり「あなたが知っている人やシリーズの新作ですよ」というアプローチの仕方であり、その前作や過去の映画化にネームバリューやブランド力があれば、自ずと効果を発揮するわけで、言ってみれば「攻め」ではなく「守り」の惹句。2本とも大ヒットしたわけだから、その「守り」の姿勢が功を奏したとみるべきだろうが、なんか面白くないなあ。


●『名探偵コナン』68.7億円、『モアナ』51.5億円、『シング』51億円。

 毎年大ヒットを記録する『名探偵コナン』シリーズは今年も絶好調で、新作『から紅の恋歌』は興収68.7億円をあげて昨年のシリーズ最高記録を更新した。その「コナン」の惹句を見てみよう。

 「待っとれ 死んでも守ったる−」
 「ふたひらの運命を引き裂く哀しき歌− 紅に染まる巡恋ミステリー」

 この場合は「シリーズ最新作!!」でも「●●監督最高傑作!!」でもなく、作品の内容をイメージさせるフレーズを散りばめているあたり、"守り"の姿勢で作られた惹句とは一線を画した意気込みが感じられる。このシリーズが毎作品ごとに好記録を更新するのは、こうした"攻め"の姿勢を失わないからだろう。

 続いて春休みに公開された、新旧アメリカ製アニメ映画対決。ディズニーの新作『モアナと伝説の海』は興収51.5億円をあげ、対するイルミネーションの『SING/シング』は51億円と、わずかに『モアナ』の成績を下回り、この勝負ディズニーの勝ち。
 ただし「モアナと伝説の海」はシリーズ作品でも著名な原作の再映画化でもないことから、ディズニーというブランドを誇示すると同時に、作品の内容をイメージさせる惹句も同時に採用している。

 「海に選ばれた少女−彼女の名はモアナ。」
 「『アナと雪の女王』『ズートピア』のディズニー映画最新作」

 つまりは"攻め"と"守り"の両方を2つの惹句に込めたわけで、海に選ばれたモアナは、観客からも選ばれたのであった。
 『SING/シング』の場合もこのところヒット作を連発しているイルミネーション・エンタテインメントの新作ゆえ、そのブランドを誇示するものの、イルミネーションのヒット・キャラであるミニオンの登場作品ではないことから、ミュージカル・タッチの楽しい映画であることを、「モアナ」同様、並立する形で強調している。

 「ユニバーサル・スタジオが贈る ミニオンズスタッフ最新作」
 「それは、人生を変えるステージ。」

 かくして今年上半期は、ファミリー・ターゲット作品を中心に、大ヒット作を例年以上に輩出し、マーケットの活性化を推進したものの、さてこの勢いが下半期も維持されるだろうか。7月からスタートした夏休み映画では、手堅く観客を集めるヒット作はあるものの、大ヒットと形容出来るような、興収100億円を超えるであろう作品の姿は今のところ見えない。それどころか想定を大きく下回る成績の作品まで登場した。

 攻めるべき時に守りに入れば、大きな成果は期待出来ない。惹句1行に込めた、製作サイド、配給サイドのモチベーションを全国に拡散することで、さらなる大ヒット作が生まれることを願う次第。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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