スタイルが変わってしまった選手への懐古主義的感情と似たものが湧き立つ、グチャドロホラーの傑作『ブレインデッド』
- 『ブレインデッド [DVD]』
- パイオニアLDC
- 5,076円(税込)
- >> Amazon.co.jp
先月封切りとなった『ホビット 決戦のゆくえ』のピーター・ジャクソン監督といえば、壮大なロケ映像と最先端CGIライブアクションによるファンタジー映画の巨匠。しかし、かつてはスラッシャーホラーでカルト人気を誇っていた御仁だけに、インディからメジャースタジオ作品に転じてから作風のイメージが大きく変わった監督の筆頭かもしれません。
プロレス界でもインディで名の通った選手が"一大メジャー"WWEに所属となるや、与えられたギミックや規制の多いWWEの流儀に合わせたスタイルに変えることがあります。しかし、昔を知っていればいるほど「あの頃は良かった」などと懐古主義的になってしまうことも。
というワケで今回のお題は、カルト作好きからすると「あの頃は良かった」的ジャクソン先生初期作品の中でも文字通りの"大出血サービス"品『ブレインデッド』(1992)です。
舞台は1950年代のニュージーランド。子離れできないママが息子ライオネルとその彼女の動物園デートを尾行中、未開の孤島から密輸入された謎の小猿に噛まれてゾンビ化。ママから感染が広がってしまい、ライオネルはなし崩し的に自宅の地下室でゾンビ飼育ライフを送るハメに。しかし、強欲な叔父が自宅を奪い、パーティーを開催したことで事態は最悪の展開へ。
ママゾンビ化からホラーのベタネタの応酬と来て、中盤はヴァン・ダム級の蹴り技をみせる神父や、ゴラムの原点かもしれないベビーゾンビ(主人公のベビーに対する扱いのヒドさがみどころ)で攻め、血みどろパーティーまで一気に展開(クライマックスは後にリメイクが実現する『キングコング』のオマージュ風)。
『ロード・オブ・ザ・リング』以降のややもすれば勿体つけた作風とは一線を画す、スピード感溢れる作風がそこにあるのです。
この辺りは、天才ルチャドールとして自爆も恐れぬ飛び技を次々と繰り出すスタイルを持ち味としていたレイ・ミステリオが、WWE入り後、ペースを落として間を大事にするようになったことが重なるところ(加齢や大型選手との対戦のため肉体改造した影響もありますが)。
一方のゴアシーンは、ママの顔面から噴水のごとく溢れる緑汁やゾンビの出血などなど汁気の多さが特徴。後半は力技満載のゴアゴアミンチ祭りとなっていますが、不思議と笑ってしまうノリの良さが貫かれています。
これを観てしまうと、今のジャクソン先生は牙を抜かれた状態に違いないと思えて来ますが、由緒正しきトールキン原作の純ファンタジー作品にこんな汁気たっぷりのゴアシーンをぶっ込まれても困るので、それも当然な話。監督作ではないものの、結構グロい『第9地区』(この作品も"汁"がキー)の製作に関わるなど、"ホラー魂"的な精神性は捨ててないのかも。
はてさて、『ホビット』三部作も完結したことだし、そろそろジャクソン先生の新作グチャドロホラーが観られるかなと思いきや、次回監督作はキッズ向けCGIアニメ『タンタンの冒険』の続編ですか......なるほど「あの頃は良かったのにな」と物思いに耽るオチとなりました。
(文/シングウヤスアキ)