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プロレス×映画

プロレス顔負けのステレオタイプな登場人物がキッチュな『アイム・ソー・エキサイテッド!』

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 1940年代以降の米プロレス界では"ネイチャー・ボーイ"バディ・ロジャースの登場により、金髪の伊達男や白タオルというイメージ、レフェリーの死角で反則といったズルネタなど、ショーの売りとなるギミックが重要視され始めました。
 80年代にはホーガン、アルティメット・ウォリアーらによる過剰なまでのアピールや原色のケバケバしい衣装がプロレスのパブリックイメージとして確立されます。

 今となっては"キッチュ"とさえいえる古臭いイメージですが、時代毎に新機軸や新たな技などが生み出されても、根っこになるのはやはりこの辺りの定番。ギミックだけでなく、抗争の対立構図などでも旧来の定番をアレンジして流用しているのはWWEを観れば明らかです。

 しかし、何事もさじ加減が難しいのは言わずもがな。

 ということで、今回はキッチュな作風の代表格とされるスペイン出身のペドロ・アルモドバル監督の『アイム・ソー・エキサイテッド!』(2012)がお題。
 アルモドバル監督といえば『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール<帰郷>』の女性讃歌三部作で各国映画賞を総なめにした巨匠ですが、実は本作、「オネェCAドタバタコメディ」という色物物件なのです!

 アルモドバル監督は色彩鮮やかな画作りで人間の情感をねっとり描き、余韻を残す作風を旨としますが、初期作品では変態エロティックブラックコメディを手掛けており、本作はいわば原点回帰の一作。あらすじは以下の通り。

 3人のオネェCAが搭乗する飛行機が、降着装置の故障でメキシコへの空路を取れず、スペイン国内で旋回を繰り返す事態に。そしてその異変に気付き始めたビジネスクラスのワケアリな乗客たち。オネェCAトリオは得意のダンスで彼らの気をそらすが......

 オネェCAのチーフを務めるオッサンはアル中(機長が彼氏)、最初に異変に気付くのは未来を予知できる謎のアラフォー処女。自分が暗殺されると思い込んでいる元SM女王や、仕事でやらかして高飛びを狙う銀行頭取、新婚旅行でケツ穴に"ブツ"(これが物語の展開に関係)を隠し込んだドラッグの運び屋などなど(※)。登場人物は、プロレス顔負けのステレオタイプな変態ばかり。

 さらに、劇中で主な舞台になるのは、原色が映える60年代の映画やドラマのような作り物感バリバリの機内セット。おクスリで性欲モリモリ→皆でズコバコタイムとか、地上とのやりとりはスピーカーで全員に筒抜けになる緊急電話とか、古典的なネタが満載。登場人物も、舞台も、ネタも、まさに"キッチュ"尽くしです。

 ただ、目玉のオネェダンスは意外とあっさり目で、中盤の性交タイム以外に際どいシーンはなし。過去作にみられた、過激な表現や特徴的な容姿の俳優の起用など、ドギツイキッチュさは鳴りを潜めた内容に。
 さすがにアカデミー賞常連ともなると世間体があるのか、なんだかPG指定以来スポンサーの目を気にして中途半端なさじ加減になってしまいがちなWWEのよう。

 されどアルモドバル・エロコメディ入門としては入りやすいので、これを観てから『バチ当たり修道院の最期』『キカ』といったドギツイ奴に進んでみるのも一興です。

(文/シングウヤスアキ)

※ 地上ロケシーンにはペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラスなどアルモドバル過去作で観た顔が多数ゲスト出演しています。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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