社会派監督の初ファウンド・フッテージ作『ザ・ベイ』は、全盛期のスタイルを守りつつ00年代スタイルにも対応したHBK的味わい
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1980年の『食人族』を起源とするPOV(主観視点)モキュメンタリー「ファウンド・フッテージ(発掘されたいわくつき映像、という設定)」モノ。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のヒット以来、無名クリエーターが低予算でも一攫千金を狙える野心的ジャンルという印象がありますが、2007年には『パラノーマル・アクティビティ』(一般公開は2009年)、『REC/レック』の登場で本格ブームが到来。
ジョージ・A・ロメロ、J・J・エイブラムスといったビッグネームも参戦し、片や直球(得意のゾンビ題材の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』)、片や変化球(怪獣題材の『クローバーフィールド/HAKAISHA』)でそれぞれ話題になりました。
そして2012年に遅れて参戦したのが、アカデミー監督賞・ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の『レインマン』をはじめ、『グッドモーニング、ベトナム』『スリーパーズ』など社会派で知られるバリー・レヴィンソン監督。
そのレヴィンソン監督初の「ファウンド・フッテージ(以下、FF)」モノ『ザ・ベイ』。米国政府によって隠蔽された、メリーランド州チェサピーク湾の港町で起きた謎の住民大量死事件の映像(機密情報公開サイトで明かされた)を元に、数少ない生存者である女性のナレーションによって語られる流れ。
近年『トラブル・イン・ハリウッド』などのコメディ作品でやや評判を落としているレヴィンソン監督。それが馴染みのない「FF」、しかも同ジャンルの主流たる"感染系ホラー"に挑戦したというだけで嫌な予感がしちゃいますが、そこは社会派の大御所。経験値が違いました。
養鶏場から投棄された大量の糞による海水汚染(実話だとか)に起因した突然変異の寄生虫発生と、その海水の淡水化再利用が感染拡大の原因という社会派らしい切り口で料理。
問題の寄生虫も、現実に世界各地の漁場で問題になっている「ウオノエ(タイノエ)」というサナダムシに似た、魚の口の中やエラに寄生するリアルクリーチャーがモデルになっています(ググる時は閲覧注意!)。荒唐無稽とは言い切れない現実味のある恐怖が描かれているのです。
一方で、WebやSNSの動画、ニュース映像や取材映像、病院や研究者の記録映像、公共施設や店の防犯カメラ映像など各種ソースを駆使して、あくまでPOVを維持。オーレン・ペリら『パラノーマル・アクティビティ』製作陣が関わっているとはいえ、POVが徹底されない昨今の「FF」の中では王道的な作品といえます。
WWEでいったら、90年代の全盛期のファイトスタイルを維持しつつ、00年代の若手世代のプロレスに対応した"HBK"ショーン・マイケルズのようなものでしょうか。
いずれにせよ一時代を築いた人は、なんだかんだで対応出来てしまうのは映画人もプロレスラーも同じかも。
さておき、環境破壊への警鐘を軸とするリアル志向のせいでホラー要素が若干弱い難点もある本作ですが、オカルトに頼らない味わい深い「FF」モノとしてオススメです。
(文/シングウヤスアキ)