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プロレス×映画

観れば思わず意識高い系な主張をしたくなるカルトの金字塔『エル・トポ』

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 インターネット以前、いち個人が海外プロレスの映像を観るには、クソ画質の輸入VHSビデオくらいしかなく、しかも素性のわからない選手たちの試合を字幕無しで観て、通ぶった気分になる、なんて時代もありました(筆者個人は、ですが)。
 CS放送が始まってからはスポーツ専門局やプロレス専門局で海外の映像を手軽に観れるようになりましたが、時には字幕もなく、やはりここでも「なんだかわからんがこれを面白がれるオレ最高」的な、意識の高さを暗に主張したものです(誰に?)。

 そこで今回は一般人からすると意味不明だけど、"それ系の人たち"からは大絶賛のカルト映画の金字塔『エル・トポ』(1971)がお題であります。

 アレハンドロ・ホドロフスキー主演・監督の本作は、ジョン・レノンやデニス・ホッパーなど常にハッパでトリップしてそうな60~70年代のサブカル人脈に愛された作品。
 監督個人と共に様々なメディアで語られているので、詳しい解説はそちらに譲りますが、そのエログロかつアヴァンギャルドな映像は一言でいえば、「正直よくわからんけど、面白いと言っておけば通ぶれそうな作品」です。

 一応のあらすじだけ触れておきますと......息子と共に旅する凄腕ガンマン「エル・トポ」が野盗に占拠された街を解放。すると野盗の情婦だった女から「息子を捨てて、アタイのために4人のガンマンをぶち殺して最強になるのよ!」と請われ、いわれるがままに旅立つのだが......。

 子連れ狼な展開になるかと思ったら、躊躇なく息子(真っ裸)を修道士に押し付け、父は情婦とイチャコラしながら、途中で謎の女ガンマンも加わりつつ、4連戦へ突入です。

 この連戦をプロレスの対戦カード風にしてみると、
<第1戦> エル・トポ&情婦 vs. 僧侶&従者x2のハンディ・タッグ戦
<第2戦> エル・トポ vs. デブ with デブママ(いわゆるリングサイドのマネージャー)
<第3戦> エル・トポ vs. うさぎ飼いの一撃必殺戦
<第4戦> エル・トポ vs. 賢者のシリーズ最終戦
 といった感じ。

 ただ、その試合内容がゲスでしてね。エル・トポ氏、WWEのJBLよろしく「俺は神だ」とか豪語しながら、第1戦では僧侶を落とし穴にハメ(トドメは情婦)、第2戦ではまずデブママを攻撃し、動揺したデブを背後から奇襲殺(プロレスで良くあるパターン)。
 第3戦なんて、お互い1発だけのルールなのを逆手に取り、胸に仕込んでおいた金属製の皿で相手の弾を防いで高笑いしながら射殺ですよ(定番だけど使い方がゲス過ぎ)。

 しかし、第4戦、虫取り網で弾丸を弾き返すほどの超人賢者の自殺という無常な決着により(悟りを開き過ぎて生きることに意味を見いだせなくなった?)、エル・トポ氏は己のゲスな所業を恥じ、現実逃避。情婦と女ガンマンに銃で撃たれ、捨てられたものの、フリークスの村の住人に救われ、罪滅ぼし生活に入ります。

 そして、まさかの再会からほんわかコメディシーンと来て、結局、報われない悲しい結末に至る道程は、一貫して観る者の「死生観」を刺激する作風......などと"意識高い系"風に締めて、通な気分になるのでした(※)。

(文/シングウヤスアキ)

※ イメージ先行で色々と説明不足な作品ですが、受け手の想像力でギリギリ補完出来る内容になっており、ネットで解説や考察などを読むとサブカル人脈が愛した理由がそこはかとなく理解出来るかも?

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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