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プロレス×映画

【80年代特集!】 スベってもやり切ることが大事なプロレス的論法で駆け抜ける感動珍作『オーバー・ザ・トップ』

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 80年代を代表するアクション俳優といったら、やはりスタローンとシュワルツェネッガーの両巨頭。先に成功したのはスタローン御大でしたが、80年代中盤になると『ランボー』『ロッキー』シリーズはヒットすれど、他はコケ気味、ラジー賞入賞も常連化という状況。そんな時期に製作されたのが『オーバー・ザ・トップ』(1987)です。

 放浪のトラック野郎ホークは病床の嫁さんの願いで、生き別れになっていた息子マイクを預かり、トラック移動での道中に絆を取り戻すも、嫁の今際の際に遅れるという痛恨のミス......。チンタラしとるからママが死んでもうた!と激怒したマイクは、結局大金持ちの爺様と暮らすことに。
 しかし、諦めきれないホークは息子と暮らすため、腕相撲トーナメントにエントリー。20倍のオッズになった自分の優勝に(ボロトラックを売って作った)全財産を投入し、一世一代の大勝負に出る! というのがあらすじ。

 劇中では、試合前にインタビュー映像が差し込まれ「オレは相手の腕の骨を折るのが趣味さ」など、いかにもヒールな発言をするハゲマッチョライバルなどプロレスっぽい演出が目立ちます。
 実はプロレス関係者も出演しており、テリー・ファンク(二度目の引退後の時期)が爺様のボディガード役でチョイチョイ登場し、レスラーになる前のスコット・ノートン(新日本プロレスを中心に活躍)も黄色いピチピチTシャツ姿の選手役で出演。59分25秒、同51秒付近、合せて3秒ちょいだけですけど!

 内容的には名作『チャンプ』と比較されがちですが、本作はボクシングを腕相撲に置き換え、スノッブに育った息子が、ブルーカラーの荒くれ親父特有の根性論や腕力といった汗臭い父性に染まっていく流れとなります。
 ただ、12歳のマイク少年の完全無免許運転&飛行機に乗ってラスベガスまで難なく到着やら、トーナメント優勝の副賞が何故か新車のトラック(ビッグ・リグ)だったりするけど、「腕相撲で綺麗に決着がついた!(細かいことは忘れろ!)」というノリなのでこの手の珍作好きかピュアなキッズ以外には総スカンな模様。

 WWEでも選手の家族を抗争に絡めてドラマティックに仕立てることがしばしばあり、だいたいその家族が抗争相手に襲われ、怒りの仇討ちというのが定石です。正直、毎回スベっている感が否めないけど、そこで止まることは許されないのがWWE。それを「またかよ!」といいつつニヤリとするのがファンの務めですしね(多分)。
 本作も色々感動させようとしてスベり気味ですが、決して止まることなくやり切ったことに意味がある。そんな感じの「これぞスタローン作品」といった趣です。

 散々いっておきながら個人的には大好きな作品なんですが、本作のスベり具合を加速させた臭すぎる演技でマイクを熱演したデヴィッド・メンデンホール君が87年度のラジー賞・最低新人&最低助演男優賞をダブル受賞。北米興収だけみると900万ドルの赤字といい、悪い意味で歴史に残ってしまったようです。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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