見た目と動きだけは激しい塩レスラーが延々暴れ回るような、目にも精神にもハードな珍作『スピードレーサー』
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アニメや漫画作品の実写化は地雷と化す傾向にありますが、製作サイドにリスペクトがあっても「ヒエッ」っと変な声を上げたくなる珍作が生まれてしまうこともあるのが面白いところ。そんな一例といえそうな作品が今回のお題『スピードレーサー』(2008)。
原作は1960年代の日本アニメ『マッハGoGoGo』。当時アメリカでも「Speed Racer」として放送され人気を博したそうな。そういった背景から実写化計画(※)が出ては消えてを繰り返し、16年越しに実現したのが本作。
日本贔屓でも知られる"オタク系"クリエーター、ウォシャウスキー兄弟......改め姉弟が監督ということで(本作監督後に兄が性転換)、レースシーンの迫力のCGIに加えて、原作アニメの60年代風レトロ・フューチャーな世界観を極彩色のトーンで再現した大作に仕上がっています。
が、ほぼ全篇が極彩色なせいで目にやさしくなく、軸となるレースシーンはゲームも真っ青の目が追いつかない超高速&大げさな動きで忙しいのなんの。ドラマパートでも距離感がおかしい、平面的な演出が採られており、色んな意味で落ち着くシーンが皆無。ストーリーに没入することが困難なほどの眼精疲労を催します。
当コラムでも一度ご紹介した80年代のWWE(当時WWF)で人気を誇ったアルティメット・ウォリアーも、極彩色の衣装とフェイス・ペイント、雄叫びを上げながらの大げさな動きが身上。とにかくかまびすしい選手でしたが、彼の試合は基本的にほぼ10分以下だったとされており、これなら目にも精神にもやさしいですね。
しかし、本作は極彩色ウォリアーが延々と試合を続け、挙句、見た目と動きだけは激しい塩レスラーたちが乱入しまくり、洗脳されたかのような観客が白々しくワーキャーいってる地獄絵図のようなもの!
開始15分で目がしばつくのに、まだ残り2時間もあるだと......オッサンには厳しいよコレ!
久々にダメージを伴う珍作に悪い意味で興奮してしまいましたが、一応あらすじを。
主人公スピード・レーサー(これが名前です)は、レース中に事故死した兄の跡を継ぎ、自らもレースに身を投じるも、悪徳レース企業のオファーを断ったことから、生命を狙われることに。兄の生まれ変わりのようなレーサーXに導かれ、悪徳企業の企みに打ち勝ち、スピード自らがレースをする目的を見出していく......。
といった感じの成長物語になっており、『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟らしく格闘シーンがあったり、日本への(妙な)リスペクトも感じる片言日本語を当てたアニメシーン、エンドロールの日本語のテーマ曲など、見所もあるにはあります。
でも、やっぱり拷問といっていいケバケバしい映像に白旗を上げるしかない、そんな破壊的珍作です。
(文/シングウヤスアキ)
※初期計画ではジョニー・デップ主演の予定だったそうな。