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プロレス×映画

殺人鬼「フレディ」のキャラ立ち感、そしてヤラレっぷりがプロレスっぽい『エルム街の悪夢』

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 ホラー映画には顔役となるモンスター人気に乗って続編化され、完結編とかいいつつその後も続編が続いた往生際の悪いシリーズがいくつか存在しますが、「ジェイソン」の『13日の金曜日』と双璧をなすのが「フレディ・クルーガー」を生んだ『エルム街の悪夢』(1984)。

 続編でコメディ路線に転じ、二世誕生やら迷走感極まるシリーズですが、第1作は真面目にホラー&スラッシュした意欲作で、期せずして真面目にバカをやっている感がプロレスっぽい気がする逸品。

 エルム通りに住む女子高生ナンシーが、謎の殺人鬼に友人が殺される悪夢を見ると、現実でもその友人が死んでしまう事件が発生。エルム街全体が関係した殺人鬼の秘密が判明するにつれ、自身が見る"夢"がカギだと気付いたナンシーは、悪夢の中での対決を決意する・・・。

 このあらすじから判るように、人が見る夢の力を吸収し、その力で殺戮に耽る殺人鬼(悪霊?)「フレディ・クルーガー」。
 象徴的な右手のナイフ鉤爪、焼けただれた顔、ステットソン帽に赤黒のボーダーシャツという1作目の時点で完成されたフレディのキャラクター性は、プロレス視点でみても怪奇派ギミックのお手本ともいえるもの。著作・象徴権に疎かった時代の日本のインディシーンで、風貌どころか名前までそのまんまのギミックレスラーが存在したほどです。

 といっても鉤爪については、本作中では牽制攻撃レベルで、フィニッシュ技のほとんどは自身の攻撃ではなく超常パワー。確かに欧米のプロレスではインパクトを重視した場合、選手の技以外で"オチ"をつけるのがひとつの定石。

 例えば、本作でナンシーの彼氏(※)がベッドに開いた穴に吸い込まれ、天井に向けて血がドバァと出る(天地逆にして撮影した感まるだしの)シーン。
 これなんかは、リングに開いた穴から出て来たアンダーテイカーが当時の抗争相手ケインをそのまま穴に引きずり込んだWWEでの珍事が重なります(これ以外にも数回吸い込み実績アリ)。

 ナンシーが2階から家の外に飛び出す際、クッションがあるのがまるわかりな花壇に落下するシーン(状況的には夢の中)も、WWEでよく見るパターン。
 入場ステージ周辺での乱闘時、妙に違和感のあるスカスカの機材置場があったら、それはクッションが敷かれたセーフティ落下エリア。落ちたという画があれば良いのです!

 クライマックスではフレディの自爆同然のヤラレっぷりが堪能出来ますが、レジェンド級レスラーのリック・フレアー然り、ヒールはヤラレ仕事も一級品ということを思い出させてくれる出来栄え。エピローグ含めて「ホラー映画みたわー」と思える本作は、80年代古典ホラーの好例としてオススメです。

(文/シングウヤスアキ)

※ホラー映画というと駆け出し新人の登竜門のイメージがありますが、実際、ベッドに吸い込まれて大量出血死するナンシーの彼氏を演じたのがジョニー・デップ。本作が映画デビュー作だそうです。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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