連載
プロレス×映画

リパッケージが失敗したレスラーのような悲哀を感じる珍作『レモ 第一の挑戦』

レモ/第1の挑戦 [DVD]
『レモ/第1の挑戦 [DVD]』
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
1,490円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

 幼少時、映画視聴といえばほぼTVだった筆者ですが、中でも淀川長治さんが解説者だった「日曜洋画劇場」は馴染みの映画枠。良作が多かった印象ながら、妙に記憶にへばりついていた珍作が今回のお題『レモ 第一の挑戦』(1985)。
 実は150巻近く刊行されているアメリカの小説「デストロイヤー(邦題:殺人機械)」シリーズが原作ですが、主要キャラクターと設定を拝借しただけの模様。

 ザックリあらすじを説明すると、殉職したハズの刑事が謎の組織によって「レモ・ウィリアムズ」として生まれ変わり(顔面整形含む)、謎の暗殺術の達人の元での修行を経て、いっぱしの諜報員兼暗殺者になるまでのオッサン成長物語です。

 プロレスでいえば売れない中堅選手の「リパッケージ」。ギミック(キャラ)を転向し、再出発する展開ですね。映画本編で主人公レモが謎の暗殺術の達人のもとに弟子入りさせられるのと同様、プロレスでも新しいギミックによっては、再デビュー前に専門家の手ほどきを受けることもあります。

 しかし、本作の場合は、その暗殺術「シナンジュ」がなかなか香ばしいのです。
 「シナンジュ」とは、発祥地である北朝鮮のとある村の名を冠した数千年の歴史を持つ暗殺術で、カンフー、空手はおろか忍術の源流にして、あらゆる武術の太陽、なのである!
 ......一応フィクションの暗殺術であることをお断りしておきますが、彼の国の起源説を地で行くアレですね!(原作者は米国人コンビですけども)

 不良中年レモを指導するシナンジュ伝承者チウン老人の発言も今になって聞くと耳を疑う内容のオンパレード。
 「アメリカ人は肉屋のように殺すが、シナンジュでは調和のために殺す」と自己肯定するのは序の口で、「韓国人は中国人より優れた地球上で最高の生物」とか、レモについても「韓国に生まれなかった不運を差し引けば、白人にしては良い線」などなど、WWEで非米国籍選手がヒールとして発言しそうな煽り文句をシレっと繰り出すチウン老人。怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ(淀川長治風に)。チウン役は特殊メイクを施したユダヤ系の俳優なんですけどねぇ。

 映画本編でシナンジュの技の数々が登場しますが、特に目玉といえるのが、チウン老人が序盤でみせた、拳銃の引き金を引く筋肉の音を聞き分けて弾丸を避けるというシナンジュの達人技。数々の困難(いうほどでもない)を経て成長したレモもクライマックスで披露するのですが、時代が時代なので『マトリックス』みたいなスローモー演出はなく、ただ「パッと」避けるだけ! 潔いですねぇ。地味ですねぇ。

 自由の女神での大立ち回り(※)や細かいことを気にしないレモの性格など、型破りスパイヒーローを狙った節が伺えるものの、本作最大の見せ場が最後のチウン老人の湖面走りという、概ねスベってる空気にこっちの気が滅入る約2時間。
 プロレスでいえば、リパッケージで華々しく再デビューしたのに「つまらん」チャントを浴びるどころか無反応という、いたたまれない空気にこっちが物悲しい気持ちになる感じでしょうか。海賊キャラに転向して大失敗したポール・バーチルの悲哀を思い出した次第です。
 
(文/シングウヤスアキ)

※本作撮影時、実際に自由の女神は建造100周年で改修中だったそうですが、本物は一部だけでほとんどの場面はレプリカセットが用いられたそうです。余談ですが「第一の挑戦」という副題の通りシリーズ化が予定されていたものの、のちのTV版もパイロット版のみで頓挫。幻のプロジェクトとなっているようです。

« 前の記事「プロレス×映画」記事一覧次の記事 »

シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム