プロレスを題材にした映画シリーズ:ミッキー・ローク主演『レスラー』
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久々の「プロレスを題材にした映画」シリーズとして採り上げるのは、ミッキー・ローク主演の『レスラー』(2008)。ヴェネチア映画祭金獅子賞作品というメジャー感から何となく避けていたのですが、そもそも「プロレス映画」は絶対数が少ないのでご紹介させて頂きます!
80年代に全盛を誇った大物レスラー、ランディ"ザ・ラム"ロビンソン。宿敵アヤットラーとの伝説の一戦から20数年が過ぎた現在も場末のインディ団体に出場しては、恋心を寄せるストリッパーのもとに通うくらいの張りの無い現役生活を続ける日々だったが、そんな折に伝説の一戦の再戦話が浮上。
しかしその矢先に、ペインキラー(痛み止め)などの長期常用から心臓発作を起こし引退を決意。音信不通だった娘との関係修復から第二の人生を始めようとするも、不器用な生き方しか出来ないランディは次々とドツボに。結局、残った道は・・・。
要は中年スポ根ドラマですが、本物のレスラーや実在団体(CZW、ROH)のイベントやリング設備を撮影に使うなど、「プロレス」を題材にしたモキュメンタリー(創作ドキュメント)になっているのが特徴。そんな中で落ち目のレジェンドを演じ切ったミッキー・ロークが醸しだす"うらぶれ感"が本作のポイント。
特に印象的なのが、サイン会でファンが誰も来ない中、くたびれた選手たちが暇を持て余す、生々しいまでのうらぶれ感。もうサインも貰わずそのまま帰りたくなるレベルです。
また、選手同士の打ち合わせシーンでは、各試合での"ネタ被り"防止相談も見られますが、実際これに類するお約束として、自分より売れ線や格上の選手の得意技と自分の技が被る場合、使用を自粛するケースもあります。逆に試合を盛り上げるために敢えて使うこともあり、本作のクライマックスでこの"掟破り"ネタが見られます。
尚、ランディのモデルは複数選手をベースにしているようですが、核となる"うらぶれ感"については、ジェイク"ザ・スネーク"ロバーツがモデルのようで、作中でランディが場末のバーで会った美女とドラッグ・セックスに溺れて娘との約束をすっぽかすシーンは、疎遠の娘と会うのが怖くてドラッグに逃げてしまった実話がベースになっています。
最終的にどん詰まったランディは「レスラーの性(さが)」に従い決戦に臨みます。ただ、クライマックス故に仕方ないとはいえ、ドキュメンタリー然とした丁寧な画作りから急に芝居っぽくなるのが玉に瑕。
現実のプロレスでいえば、わざとらしさが見えてしまう出来の悪い試合。そもそも宿敵アヤットラー役を務めたのがレスラーとしてはソルティな「キャット」ことアーネスト・ミラーってアカンでしょ。
なもんで、プロレスを知らない人の方が素直に楽しめる・・・かと思ったのですが、このグダグダ感はレジェンド同士の試合なら十分にあり得るだけに逆にリアル。ということで、あらゆる方に名作『レスラー』オススメです。
(文/シングウヤスアキ)
※作中でランディがスーパーの精肉コーナーで働くシーンのオマージュとして、WWE番組中、投資に失敗したショーン・マイケルズがしなびたレストランでのハンバーガー焼きに身をやつすネタが演じられたほか、本作プロモーションの一貫として、WWE年間最大イベント『レッスルマニア25』でクリス・ジェリコと絡んだりもしています(直接試合はしていないものの、自慢の猫パンチを炸裂)。