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プロレス×映画

「エスクリマ」の薄味感がブラックマンとシンクロする『奪還:ブレイドファイター』

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 格闘技経験を売りに持つ俳優やレスラーは何かと"俺はひと味ちがうぜ"感を押し出しているものですが、謎の格闘術「エスクリマ」経験者による『奪還:ブレイドファイター』(2012)は確かにひと味違います。

 この耳慣れない「エスクリマ」(※)とはフィリピンの国技であり、スペイン統治時代、現地部族の武器格闘術がフェンシングと融合・発達。アメリカの軍・政府機関でも一部採用されている近接格闘術なのだとか。
 そんなエスクリマ使いのエリック・ジェイコブス氏が、主にスタントマンとして活動する傍ら製作・監督・脚本・主演まで務めたのが本作です。

 まずは本作のあらすじから。自閉症の弟が起こした火事で母親が死んで以来、他人に怒りを覚えると妄想の中で痛めつけ、仕事中にイヤミを言われただけでトイレでふて寝するレベルのダメ主人公が、職場の美術館を襲った謎の窃盗犯と遭遇するや現実世界でも大立ち回り。展示品の古いコインを盗み、弟を拉致したカルト教団に挑む、という後半に至るにつれ謎展開になります。

 事前予想的に挿入される妄想を視た主人公が最善策を採る演出が売りっぽいのですが、やけに重苦しい設定や気が滅入るBGMが終始垂れ流されるなど「暗さ」も特徴。
 かといって、弟は自閉症のせいか危険も理解せずフリーダムな行動を取るし、脇役にしても、ブーメランパンツの中から取り出したホカホカの携帯電話を提供して主人公を助ける昔馴染みや、主人公とのバトル中に空気を呼んで攻撃の手を止めちゃう窃盗犯(後述の香港映画っぽい部分)などなど、画的にはシリアスなのに大方が変人揃い。

 というのも、コメディ路線企画だったものに「いくつかのシリアスな要素を加えた」んだそうな。つまり、妄想癖のある主人公と変な脇役陣に終始暗いBGMというコンボは、シュールな笑いを意図しているのでしょう(多分)。。
 プロレスでも怪奇派レスラーはホラーな存在として扱われますが、WWEのアンダーテイカーは「仰向けダウン状態から急に上半身を起こす」というエクソシスト的な持ちネタを、敢えてシュールな笑いを意図したシーンで使うことがありますしね(本当は違うかもだけど!)。

 さて本作最大の売りであろう「エスクリマ」要素ですが、その前にプロレス界にエスクリマ経験者なんて居んのかいなと思ったら、居ました"リーサル・ウェポン"スティーブ・ブラックマン! ブラックマンは武術家ギミックで97年にWWF(WWE)デビュー。打撃寄りのスタイルに加え、エスクリマ由来の棒術や竹刀(剣術)攻撃が持ちネタのひとつでした。

 作中でも「エスクリマ」特有の武器格闘や相手の武器を奪う動きは後半のナイフバトルで確認出来ますが(ってこのシーンだけで邦題決めた?)、全体のアクションのイメージとしては、ジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポーが得意とするコミカルな香港スタイル!
 何だか既視感を憶えるなあと思ったら、そういえばブラックマンも武術家といいながら投技をほぼ使わないだけで、あとはプロレス流の打撃とそれっぽく武器で殴るだけ。振り返ってみると、なんと薄味な「エスクリマ」感だったのだろうと遠い目になる筆者なのでした。

(文/シングウヤスアキ)

※フェンシングはスペイン語で「エスグリーマ(Esgrima)」。「フェンシングっぽい武術」と感じた統治時代のスペイン人が「エスクリマ(Eskrima)」と名づけたそうです。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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