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プロレス×映画

プロレスみたいに正義の制裁を実行したら大変なことになった『ピザ男の異常な愛情』

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 今回のお題は『ピザ男の異常な愛情』(2008)。『24』や『ブレイキング・バッド』などTVドラマ畑の監督と脚本家による低予算ビデオ映画。無論、あの有名作品とは無関係です。

 文字通りピザ体型(つまりデブ)のピザ配達員オーティスは、憧れの女性だった義姉"キム"への歪んだ愛の矛先として、少女を拉致監禁し、拷問を施しながら"キム"を演じさせ「ぼくの考えた最高のプロム・デート(エッチ込み)」ごっこに興じているサイコパス。事が終わればバラバラ死体にして廃棄していた彼は、ピザの配達先だったローソン家の長女ライリーを"6人目のキム"として拉致り、いつものように妄想プロムに興じるのですが・・・。

 「異常者による監禁物」ということでプロレスでの有名例が浮かぶものの、本作のキモは、ベビーフェイスたる被害者家族が、ヒールたるサイコ野郎に正義の制裁を実行した・・・ハズが、「過剰な正義って怖いっ」的なオチに至る部分です。

 事件発覚以来、ローソン家にはFBI誘拐対策チームがスタンバるも、ローソン家前に停めた車の中から(プロムのお誘い了承確認兼脅迫で)電話していたオーティスの存在に気付かないなど、主任捜査官ホッチキスを筆頭にポンコツ揃い。そんな膠着事態にしびれを切らしたローソン家の3人(父、母、弟)が独自に娘ライリーを捜す手立てを講じていた矢先、ライリー本人から脱走成功の吉報が。
 しかし、ホッチキス捜査官が入院中のライリーから「オーティスにレイプされた」と聞き違いしたせいで、怒りに燃えるローソントリオは「どうせ犯人は数年でムショから出て来る。殺るしかない」と一致団結。ここからそれぞれの立場も一変します。

 オーティスの自宅に潜り込んだローソントリオは、そこに戻って来た"男"をブチのめすや、まずはこれだ、いやこれはどうだ、これならどうだと私が俺がとばかりに数々の拷問フルコース。
 なるほど、プロレスなら過剰な正義は大歓迎。WWEでよくある、複数のベビーフェイス選手がこれまで自分たちを苦しめたヒール選手(大体1人)に次々と得意技をブチ込んで行く"ハッピー公開処刑"にも似ていますね。

 ところが、オーティスの容姿を知らないローソントリオが拷問死にさせてしまった"男"が彼の兄エルモであることが判明。要するに単なる拷問殺人者になってしまったトリオですが、雑過ぎる解体死体ポイ捨てシーンなどは三下ジョバーもかくやで、証拠を掴んだホッチキス捜査官まで殺りかねないほどゲスな思想に変遷。
 これがプロレスならヒール側のオーティスに同情が集まってベビーフェイスに転向してる展開です。

 はてさて、過剰な正義を正当化するため社会正義と開き直るローソントリオと、一転して標的となってしまったオーティスの運命は!?・・・といった感じでエンディングへ。
 社会風刺的なコメディ・サスペンスとして割と手堅い出来で内容で珍作と煽るほどではない本作ですが、パッケージヴィジュアルから漂うエログロ監禁物臭と期待してると壮絶な肩透かしで脱臼しかねないので注意ですぞ。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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