舞台固定化とリアルタイム進行がWWE中継番組っぽい『フォーン・ブース』
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今回のお題『フォーン・ブース』(2002)は、困り顔ゲジマユでお馴染みのコリン・ファレル主演作品。その特徴は公衆電話ボックスを舞台に固定したリアルタイム進行。プロレスも、特にWWEの中継番組は試合会場を舞台にしたリアルタイム進行物となります。ということで今回はその辺りを軸に比較していきたいと思います。
芸能コンサルタントのスチュが公衆電話ボックスから浮気ターゲットとして狙っている女優の卵の誘い出しに失敗した直後、そのボックス宛に掛かって来た電話をつい取ってしまう。すると電話の男は唐突に「ボックスから出るな」と警告。最初は本気にしなかったものの、電話の男はスチュしか知らない個人情報を口にしたかと思えば、いつでも銃で狙撃出来ることを告げ・・・という感じで徐々に緊迫感を増す異色サスペンス。
主人公スチュのキャラクターは、警官から買ったゴシップニュースを新聞社に売り込んだり、ツケを踏み倒しまくっているレストランの店主に詰め寄られるやお抱えのミュージシャンのリリースパーティーを予約するとうそぶき、さらに本採用する気もない助手見習いをコキ使ったりとペテン師同然の芸能ゴロ(ゴロツキ)というクズ野郎。
そして"見えない敵"となる電話の男は、スチュの浮気の企み(またペテン師紛いの言動)を彼自身から妻ケリーに告白させるため、数々の脅しネタでチクチクと心理攻撃。
一方でスチュは電話を切れば狙撃すると脅されボックスに籠城することになります。そのため、電話の男との心理戦だけでなく、電話ボックスを使いに来る人々や、後半になると警察関係者にも対応しなくてはならず、中(電話)と外からのプレッシャーで心理的に追い詰められていきます。
そんな感じの本作をプロレスと比較してみると、ボックス周辺の街頭一帯を「試合会場」、ボックス周辺を「リング」に喩えれば、スチュがゲスな振る舞いをしながら電話ボックスに入るまでの10分は、選手の会場入りからリングへの入場シーンのようなモノ。
WWEでは、経営者のマクマホン一族やJBL(現在は実況解説者)、アルベルト・デル・リオのようなブルジョワ系ヒールなどがリムジンで会場入りし、子分をはべらせながら登場。リングに上がるまでスタッフやジョバーを脅かすなどしてヒール感をひけらかします。
また、スチュと電話の男のやりとりは、リング上の選手(電話ボックスのスチュ)と会場内のスクリーンに映る相手選手(電話の男)とのトークバトルといった趣き。
そしてボックスの周りに次々やって来る人々とのやりとりは、複数の相手との連戦となる「ガントレット形式」状態。ちなみにスチュの決まり手はほぼ現金払いや!
あくまで「ボックス=リング内」のスチュと電話の男のやりとりが主軸ながらも、「ボックス周辺=舞台裏や客席」の警察関係者や身内との交渉戦など二点三点しながらリアルタイム進行で描かれる本作。
"転じる"という面では、序盤のスチュは明らかにヒール臭を漂わせたゲス野郎でしたが、騙していた人間たちに対して(しかも野次馬=観客たちの前で)誠実に謝罪することで「ベビーターン(善玉に転向)」するというのもWWE番組的な展開。ついでに設定関係で「いやいやなにそれ」的な強引かつ適当なところも似てるかも!
(文/シングウヤスアキ)