弱点ルールを律儀に守る吸血鬼像に、試合ルールを尊重するヒールレスラーが被る『フライトナイト』
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ホラー映画の定番「吸血鬼物」。高い知能と特殊能力を持ちながらも同時に弱点を多数抱えるのが吸血鬼の特徴ですが、今回のお題『フライトナイト(※)』(1985)はその基本ルールを守りつつ「吸血鬼が隣に引っ越してきたら」という話を淡々と描いた日常系ホラー。
未だにヤラせてくれない彼女エイミーといよいよ一線を越えようとしていた主人公チャーリーが、ふと窓の外を見ると、最近隣に越して来た二人組が棺を運びこむ場面に遭遇。監視を続けていると隣の主人が女性の生き血を吸おうとする瞬間を目撃。その翌日にはその女性と思われる変死体が見つかったことで、チャーリーは隣人が吸血鬼だと確信するも、警察に通報してもシラを切られ、逆に窮地に追い込まれてしまう・・・。
というお話なんですが、そもそも「吸血鬼」がプロレス的なんですね。十字架に弱い、聖水に弱い、太陽光線に弱いといったメジャーな弱点のほか、本作では「家主から招待しなければその家に侵入出来ない」という基本弱点ルールの中ではかなり地味なものまで採用されており、しかも吸血鬼側もそれらのルールを守る律儀さは、昔気質なヒールレスラーが試合のルールは一応守る、的な面と重なります(系統によってはルールを無視するヒールもいますが)。
ベタな流れでママが隣のダンディ吸血鬼を自宅内に招待してしまったため、チャーリーは窮地に陥ってしまうんですが、ママの訝しがる声を気にした吸血鬼は「運が良かったな!」とばかり撤退。
抗争相手を暴行してたのに救援が少数来ただけでトドメも刺さずにすぐに撤収しちゃう"無駄に空気を読む"ヒールレスラーみたいです。
切羽詰まったチャーリーたちはホラー番組「フライトナイト」司会者ピーターさんを本物の「ヴァンパイア・キラー」だと思い込んで説得、というか500ドルで仲間に引き入れます。これはいわばWWE番組で起こる事象をリアルな事象と勘違いしているような状態でしょうか。
ピーターさんは「あれは演技でワシは役者やで」とチャーリーにカミングアウトしますが、隣人が鏡に映らないことで"吸血鬼"だと気付いてしまったため、あとには戻れなくなる展開。
後半のクライマックス・シーンでホラー映画らしいVFXや特殊メイクが表立って来ますが、今の時代に観ると、頑張ってるけど何か笑ってしまう出来で、ヒロイン・エイミーが微妙にババ臭い容姿のせいか、個人的には後半の某シーンで一番怖かったのが彼女だったほど。作品の方向性自体がクスりと笑えるコメディであり、淡々とした演出も相まって概ねシュールな味わい。
とかく地味なので視聴の際はしっかり睡眠をとっておくことをオススメします。筆者は勿論、途中で寝ましたよ!
(文/シングウヤスアキ)
※今作の「フライト」とは「Fright=恐怖」の意。尚、1988年の続編と2011年のリメイク版が存在しますが、後者は3D映画として製作されたせいか大人の事情が色濃いご都合演出と強引なCGのお寒い内容となっており、褒められる点はヒロインがオリジナルより可愛いことだけです!