ノンフィクションをプロレスっぽい過剰フィクションで演出しちゃったトンデモ怪作『アダプテーション』
- 『アダプテーション [DVD]』
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今回のお題は「ハゲなんか気にしないぞ」などというツッコミどころに困るニコラス"植毛"ケイジ兄貴の独白から幕を開ける『アダプテーション』(2002)。ニコラス兄貴が一人二役に挑戦した本作は、映画脚本家が味わう生みの苦しみと成功へのひらめきを題材にした作品ですが、怪作『マルコヴィッチの穴』の監督スパイク・ジョーンズと脚本家チャーリー・カウフマンのコンビ作品ということで、人を食ったような内容が特徴。
実在のノンフィクション本『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』の映画化に取り掛かったチャーリー・カウフマンが「この原作本、ストーリーねえし!」と行き詰まった結果、執筆に悪戦苦闘する自分自身を主人公にした再現ドラマとして脚色。ついでに脚本家志望の架空の弟も出しちゃう画期的作品にしてやるぜ!・・・的な香ばしいアイデアを本当に具現化しちゃったのが本作。
ニコラス兄貴演じるチャーリー&ドナルドの現在進行形の時間軸となる「カウフマン」パートと、メリル・ストリープ演じる原作本著者スーザン・オーリアンの取材当時を再現した過去時間軸の「オーリアン」パートの二元中継的な展開で進みますが、つまりはノンフィクションでありつつも、要所の味付けは突飛なフィクションで構成されています。
先日の『スパイナル・タップ』の記事では、フィクションをアドリブでもって現実の事象のようにみせる表現方法とプロレスの試合の組み立て方に共通項を見出しました。が、その真逆ともいえる、本作の「ノンフィクションを過剰な演出と脚本で味付けする方法」もまたプロレス的と言えます。
ショー要素の強いWWEの場合、シナリオに沿った試合結果やハプニングの仕込みなどの点で、フィクションだからこそ成立する醍醐味(期待通りの結末)と意外性(まさかの展開)があるためです。
また、カウフマン自身の投影であるチャーリー&ドナルドを"冴えないハゲデブ男"と自嘲気味に設定(本物はフサフサかつ痩身)している一方で、出演者に「『マルコヴィッチの穴』は最高」「貴方は天才」などと言わせる辺りから漂うカウフマンの"俺様最高感"。
プロレス界に目を移せば「俺は世界最高」だの自画自賛する輩はカート・アングルやクリス・ジェリコ、CMパンクなどなど枚挙に暇がありませんが、彼らはギミック上そう言ってるだけなので、他人・他人格に言わせちゃうカウフマンのイタさは紛れも無くノンフィクションでしょう。
はてさて、中盤に入ると時間軸の違うチャーリーのパートとオーリアンのパートが、同じ時間軸で交わり始め、明らかにフィクション強めの展開に転じますが、その展開は、現役ボクシング(WBC)王者フロイド・メイウェザー本人がWWEでの試合に出場し、身長約50cm、体重約140kg差もある巨人ビッグ・ショーに殴り勝った一戦のような"ありそうであり得ない"トンデモ展開。
実在原作本の映画脚本化執筆苦労話として観始めたハズが、謎のトンデモ展開を経て、そのくせ爽やか(個人的には「ハァ?」と言いたい)に終わるため、人によっては怒りすら覚えかねない怪作『アダプテーション』。視聴の際はB級珍作を観る時よりも精神力を高めて挑むことをオススメ致します!
(文/シングウヤスアキ)