虚構と現実の境界線ギリギリ感がプロレスっぽい、モキュメンタリー代表作『スパイナル・タップ』
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『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来、低予算ホラーの人気ジャンルとして「モキュメンタリー(虚構の人物や事象をドキュメンタリー風に撮る映像表現)」が定着していますが、虚実ないまぜのレスラーたちの一挙手一投足に観客が現実に一喜一憂するプロレスもまたモキュメンタリー的だよね、ということで今回のお題とするのは、80年代のモキュメンタリー代表作とされる『スパイナル・タップ』(1984)。
紆余曲折を経て人気UKメタルバンドとなった「スパイナル・タップ」の全米ツアーに密着したドキュメンタリーならぬ「ロキュメンタリー」・・・という体のコメディ作品。80年代までのハードロックやメタル事情に明るい方ならそれとなく分かる"あるある"ネタが作品中に散りばめられているのも特徴。
芸術家かぶれの彼女の言いなりになっている中二病気味ボーカルと、ギター音量に無駄にこだわりがあるギタリストの幼馴染コンビがバンドの中心だけど、音楽性の違いから度々衝突。間に挟まれるベース担当は所属歴は長いけど発言力皆無で、ドラマーは変死か事故による離脱がお約束でライブの度に別の人に変わってるといった具合に、メンバー構成からして"ロックバンドあるある状態"です。
本作は、脚本に沿ったキャラクター設定と大枠の演出に合わせて演じたアドリブシーンを大量に撮って抜粋・編集されたそうですが、そのリアルな演技に加え、ライブシーンではキャスト陣になまじ演奏技術があったせいか、本当のドキュメンタリー映画と勘違いする人が出たそうな。
プロレスの場合も脚本(広義で「ブック」ともいう)に沿って試合を進め、決められたオチをつけるワケですが、そこに至るまでは選手各々が自身のキャラクターに沿った形でアドリブで組み立てることになり(流れをカッチリ決めてる場合もある模様)、巧い選手同士ほど脚本を感じさせない攻防を魅せてくれます。
またプロレスの場合は「見応えのある展開」が優先されるため、スキットにしても試合にしてもウソ臭い流れも許容範囲だったりしますが、その点はあくまで創作物の本作も同じ。
ボーカルが発注した18フィートのステージセットが指示書のミスで18インチのサイズで届いてマネージャー大激怒、なのにそのままライブで使って大問題発生のくだりなど、筋書き・演出と思しき箇所が分かるようになっていて、しかも「ロック業界人なら本当にやりかねない」ところがポイント。
この虚構と現実の境界線のギリギリ感が、なんともプロレスっぽいというのが筆者の個人的印象。
一応物語としてはお約束のバンド分裂危機を経て、ビッグ・イン・ジャパン(※)な展開で終幕していますが、「スパイナル・タップ」というバンドそのものは映画公開後も数年おきに再結成ツアーとアルバム発売を繰り返しており(直近では2009年)、半実在バンドとして認知されているそうです。
(文/シングウヤスアキ)
※本国で無名のハードロックやメタル系バンドが何故か日本で大人気状態になり、同時に日本人気だけで終わる現象。例外的にQueenやBon Joviのように本国でも大物になったケースもあります。