一力遼NHK杯選手権者と佐田篤七段の激戦

左/一力遼NHK杯選手権者、右/佐田篤七段 撮影:小松士郎
第69回 NHK杯 2回戦 第1局は、一力 遼(いちりき・りょう)NHK杯と佐田篤史(さだ・あつし)七段の対局となった。松浦孝仁さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。

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■強さと可能性を見せつけた激戦

一力遼NHK杯選手権者の登場だ。あちこちで猛烈に勝ちまくっている。それらの戦績については触れる必要はないだろう。周りの棋士は現在の一力をどう捉えているのか。佐田篤史七段に聞くと面白い答えが返ってきた。
「日本で一番崩し方が分からない棋士だと思っています。勝利へのビジョンがとにかく描けないんです」
井山裕太棋聖や強い棋士はたくさんいるが、AIの知識と盤上がかみ合って正しく打てれば、それも大変難しいことではあるものの、もしかしたら逃げ切れるとイメージできるそうだ。大胆な工夫を試してくる芝野虎丸王座は、自ら転ぶなんてこともないわけではない。つまり、そういった僅かな隙も一力は見せないということか。

■崩せない棋士

先番の一力は上辺に向かい小目、佐田は二連星の布陣。黒9の三々入りから13の下ツケは、穏やか路線に進む気はないと宣言している。白14はファイティングポーズを取ったようなもの。解説の安斎伸彰七段は「難しいことになるんじゃないでしょうか」。黒13は15、白14はAならのどかな立ち上がりだった。
黒19の切りからは難しいとはいえ、一つの結論は導き出されている。当然両者は研究済み。表情に険しさはない。AIの勝率も黒23のあたりではイーブンだった。


■超大型定石完成

対戦成績は一力の2戦2勝。佐田によれば、8年前に練習碁で一度だけ勝ったことがあるそうな。「一力さんに勝ったのですから、忘れるわけがないです」と力説していた。
断っておくが、本局に関して佐田は決して引き立て役ではない。これは強調しておきたい。一力の強さと同時に、佐田の可能性を印象づける内容となる。
左下の超大型定石は黒59で一段落。攻め合いはセキだ。いくつかポイントを押さえておこう。白28は右下星を意識した一手で、部分的には白30とアテて激しくいくのもある。黒31は当然。隅の白を取ってもポン抜かれてはいけない。
白40のオキでようやくセキの雰囲気。このあたりでもAIの勝率はほぼイーブンのまま変わらない。全く動きがないから調整室にいた私は故障かと心配になった。すると「安心してください、動いていますよ」と担当者が教えてくれた。それだけ両対局者は微に入り細をうがつ研究を積み重ねていたということだ。
白54は絶対。手を抜いて黒54とハネられてはたまらない。続く白56は59とノビたくなるが、左上には黒の援軍が控えている。戦ってもごちそうにはありつけない。
佐田は左上に目を向ける。白62、64と切り違って黒の出方をうかがう。1図の黒1なら注文どおり。白2、4を決めて白は弾力に富む姿を手に入れられる。このまま他の大場へ向かい、黒aには白bの態勢だ。

黒65なら白66のツケがカッコいい。「2図の黒1には白2、4の筋があります。これは黒がいけない」と安斎七段。 
黒67と引いた時がちょっとした分岐点だった。白70は絶好のノビに映るが、のちに腰の伸び過ぎとしてつかれることに…。

※終局までの観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年10月号より

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