行方尚史九段と久保利明九段、戦友として戦ったNHK杯

左/行方尚史 九段、右/久保利明 九段 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯3回戦第1局は、行方尚史(なめかた・ひさし)九段と久保利明(くぼ・としあき)九段の対局となった。内田晶さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。


* * *


■戦友に込められた思い

タイトル獲得や棋戦優勝を果たし、東西を代表するトップ棋士になった久保と行方。棋士番号はわずか1番違い。年齢は行方が2つ上だが、四段昇段は久保が半年早い。久保が関東に籍を置いていた若手時代は、練習将棋に精を出した間柄でもある。知る人ぞ知るライバル関係にある2人だが、言葉遣いに敏感な行方は、久保を「戦友」と表現する。タイトル獲得経験のある久保への敬意が込められているのだろう。
対局開始前の控え室。いつもはスタジオ移動の時間を確認して、直前まで姿を消すことが多い行方だが、この日は珍しく関係者と談笑する。視線の先には聞き手の藤田綾女流二段と棋譜読み上げの和田あき女流初段がいた。
後手番の久保は角交換振り飛車を選ぶ。直近で類似形を指しており、互いに細かい工夫を凝らしたのが本譜の進行だ。行方は右銀を繰り出して、後手の弱点である3四の桂頭を狙う。対して左金を3二に上がることが多い久保は、5二~5三と力強く押し上げ、熱戦を予感させた。



■大さばきで中盤戦に

久保は大のゴルフ好きとして知られる。最近は対局や公務が増えて、クラブを握る機会がめっきり減ってしまったと嘆く。そんな中でうれしいことがあった。タイガーウッズ選手がPGA(全米プロゴルフ協会)ツアー勝利数ランキングで82勝目を挙げて歴代1位タイに並んだ。
「彼は同世代なので、私もまだまだ頑張らないといけないと勇気づけられた」と語る。久保のさらなる進化を期待したい。
2図から先手は▲3五歩と仕掛けた。以下△3五同歩▲同銀で後手は桂頭が受からないように見えるが、△6四角が用意の切り返し。▲4六銀には△4四歩がぴったりで、次の△4五歩▲3七銀△3六歩が残る。本譜は▲4六歩が読みの入った好手で、3図まで進み、行方は手応えを感じていた。


だが、3図で▲2六飛と引いたのが緩手。代えて▲2七飛なら本譜よりも得だった。以下、本譜のように△1九角成▲2二歩成としたときに効果が現れる。後手は△2六歩▲同飛△2五歩と飛車先を止めることになるが、先手は本譜に比べて1歩もらうことができるからである。手持ちの歩が1枚と2枚では大きな違いとなるのがプロの将棋。行方は「▲2六飛はつい形で指してしまった」と反省する。
本譜は交換した飛車を先着した先手が好調に見える。しかし、先手玉は7六の地点が弱点で、見た目ほど堅くはない。行方は4図で△2九馬と桂を補充されて△6四桂~△7六桂を見せられる筋を警戒していた。だが、久保はそうは指さなかった。

 


※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2020年2月号より

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