医師に転身した坂井秀至八段へ…趙治勲名誉名人の思い

ネットのニュースで知り、びっくりしました。関西棋院の坂井秀至さん(八段)が医師の道に転身するそうです。引退ではなく長期休場とのこと。「近年納得できる内容の碁が打てなくなり、タイトルを目指して取り組むことができなくなった。若い頃に目指した医師の道に進む予定」とのコメントが寄せられていました。
彼がぼくのことを恨んでいるとの説があります。記憶はあいまいだけど、何かのときに彼の碁を見て、「碁打ちよりも医者になったほうがいいんじゃない?」と話したらしいの。雑談の中で軽口をたたくってよくありますよね。で、世の中にはご丁寧にもそれを伝える人がいるらしく、坂井さんが不快に思っているという話。実はこれも本当かどうか。彼も仲間内で、「趙治勲なんてもうおじさん。あれこれ言われたくないよ」ってくらいのことを冗談で言ったとしても不思議じゃない。それをまたまたご丁寧に、周囲に漏らしてくれる人がいるかもしれないし。
ぼくにしたって坂井さんにしたって、面と向かってそんなことは言いません。公の場なら、「碁の才能もすごいですが医師も人の命を助けるわけですから、ぼくからすればどちらもすばらしい世界です」くらいのコメントは用意しますよ。軽口は、お酒でもプラスされれば、ちょっととがったものに変化するもんですよ。
こういうことは他でもありました。将棋の羽生善治さんがタイトルを独り占めして、天下を取った時だったかな。やっぱり雑談の中で、「羽生さんは確かに強いけど、他の将棋棋士がだらしないのでは」って話したみたい。それが将棋の偉い先生に伝わっちゃって…、怒られましたよ(笑)。でもさ、分かってほしいよね。こんなの公式にコメントを求められたら、いくらぼくでも言うわけないじゃない!
坂井さんとぼくとの間のこうした行き違いは、実際に対局して解消されたと思っています。そしてぼくは彼のことを尊敬できるようになりました。碁聖のタイトルを取った。タイトル一つ取るのはどれだけ大変か。それも全盛のころの張栩さん(名人)が相手だからね。
※治勲先生から坂井八段へのはなむけの言葉はテキストでお楽しみください。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』連載「趙治勲名誉名人のどうでもいい碁の話」2019年11月号より

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