なぜごはんに牛乳? なぜ安価で食べられる? 現役栄養士が明かす、奥深き「給食」トリビア

給食の謎 日本人の食生活の礎を探る (幻冬舎新書 713)
『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る (幻冬舎新書 713)』
松丸 奨
幻冬舎
1,056円(税込)
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 明治時代のなかばに始まり、昭和20年代後半には全国の小学校で実施されるようになった「給食」。戦後に生まれた人であれば自身の経験談を語ることができ、地域差や世代差が存在することから、給食は誰もがひとこと語りたくなるテーマであるようです。皆さんも友だちや職場の人たちとの会話で一度は盛り上がったことがあるのではないでしょうか。

 しかし「給食についての正しい情報をお持ちの方は意外なほど少ないのが実情」だと東京都文京区の小学校に勤務して15年になる管理栄養士の松丸 奨(まつまる・すすむ)さんは言います。

 松丸さんは2013年に「全国学校給食甲子園」という献立コンテストで男性栄養士として初優勝して以降、メディアや講演会で給食の話をする機会が増加。しかし給食システムの背景や内幕について知る人は、現場の従事者を除くと極端に少ないことに気づいたそうです。たしかに、「なぜ給食の飲み物は主食がごはんの時でも必ず牛乳なのか?」「給食室がない学校が増えているのはなぜ?」「なぜ1食約260円の激安価格で提供できるの?」といった質問にきちんと答えられる人は少ないかもしれません。

 そこで、自他ともに給食マニアを認める松丸さんが、給食を取り巻くあれこれについてさまざまな角度から解説するべく著した書籍が『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』です。

 同書の第1章で書かれているのは、ある1日の給食室の流れ。ここではどれほど徹底した衛生管理のもと、緻密な行程と作業によって日々の給食が作られているかが明らかにされます。調理員の働きぶりはもちろんのこと、スチコン(スチームコンベクションオーブン)の導入や製パン工場の商品開発・改善などにより、よりよい給食の提供にむけて日々努力や工夫がされている点にも目をみはります。これを読むだけでも、当たり前のようにいただいてきた給食にあらためて感謝の気持ちを感じるかもしれません。

 続く第2章では、学校栄養士の献立立案について紹介。自治体ごとのルールや栄養素の基準値、メニューの組み合わせなどすべてを考え合わせる必要があり、松丸さんはその難解さを「献立作りはまるでルービックキューブをいじっているよう」とたとえます。さらに第3章では給食の歴史について、第4章では給食を規定する法律や基準について、第5章ではお金にまつわる本音、最終章となる第6章では食べ残しを防ぐためのテクニックについて紹介されています。

 給食の話は、小学生や中学生の子どもを持つ親だけが知っていればよいというものではありません。世界情勢の悪化による物価高騰が給食の予算を直撃したり、コロナ禍には「黙食」が子どもたちの給食にも強いられたりと、給食と社会の抱える問題は結びついていることも多いものです。松丸さんが記しているとおり、「給食は、その国の大人が子どもたちをどれくらい大切にしているのか、ということの映し鏡である」(同書より)と言えます。知っているようで詳しくは知らない給食の世界について、皆さんも楽しみながら触れてみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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