1000年後に生きる私たちはどう見る? 「源氏物語」を現代の社会規範に当てはめて読み解くエッセイ

ミライの源氏物語
『ミライの源氏物語』
山崎ナオコーラ
淡交社
1,760円(税込)
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 2024年1月から放送予定のNHK大河ドラマ『光る君へ』。平安時代中期を舞台に日本最古の長編小説『源氏物語』を生んだ紫式部の生涯が描かれるということで、今から楽しみにしている皆さんも多いのではないでしょうか。そんなタイミングで今回ご紹介するのが、山崎ナオコーラさんが著した『ミライの源氏物語』です。

 『源氏物語』は今からおよそ1000年前に執筆された物語。そのため、読むときのハードルのひとつとなるのが言葉の違い(古文の読解)です。そして、もうひとつ「読みにくい」と感じる要素として山崎さんが挙げるのが、倫理観や社会規範の違いです。

 『源氏物語』には、普通の恋愛として描かれている中に、現代のできごととしてとらえるならば性暴力や誘拐、マザコン、ロリコン、ルッキズム(容姿差別)、エイジズム(年齢差別)などに当たるような描写がたくさん出てきます。

 同書では、「書かれてあることを読み解き、未来に活かしていくことが読者の道」という思いのもと、山崎さんが深く愛してきた『源氏物語』を現代ならではの倫理観や社会観と照らし合わせて読み解くという試みがおこなわれています。

 たとえば『源氏物語』には、「光源氏が幼い紫の上を自分の家に引き取って自分好みに育て上げた」という有名なエピソードがあります。光源氏が紫の上と出会うのは、光源氏が18歳、紫の上ははっきりとはしないものの10歳ほどのころのようです。ここで問題になるのは年齢差ではなく、「相手が子ども」だということ。

 光源氏側の世界に浸って読む人からは「子どもだから好きになったわけではなく、紫の上だから好きになったんだ」との主張もあるようですが、「加害者がどういう心持ちだろうが、被害者である子どもが恋愛の視線を投げられ、性行為を強いられたわけなので、ここは『ロリコン』という読みが適当だと私は思います」(同書より)と山崎さん。「『ロリコン』は、子どもの人権を傷つける文化なので、薄氷を履む思いで読むのが良さそう」(同書より)との考えを述べます。
 
 このように、『源氏物語』には性暴力にあたる描写がよく見られるといいます。現代では性的同意を確認せずにおこなわれた性行為は性暴力ととらえられますが、それはここ最近ようやく広まってきた考え方で、1000年前にはその概念さえもなかったものでした。

 同書の後半では、登場人物の女性たちの意思に反して性行為がおこなわれたことがこれまで「密通」や「不義」という表現がなされてきたことに対し、「今後の研究の場では『密通』や『不義』という言葉は使わない方がいいのではないでしょうか?」「ヒロインたちの痛み悲しみ苦しみや、当日の読者のもやもやを切り捨てずに読むことが、現代における読者の仕事だと思います」(同書より)と記します。物語の面白さは面白さとして楽しむいっぽうで、今の価値観に合わせた解釈をしてみるというのもまたひとつ、古典の読み方としてありうるのかもしれません。

 『源氏物語』という古典をもとに、現代の社会規範を取り上げながら「こんな読み方をしたら面白い読書体験ができるかも!」と提案してくれる同書。読めば、これまでとは違った『源氏物語』の物語が見えてくるのではないでしょうか。途中に出てくる、原文をより現代的な言葉で訳した「ナオコーラ訳」にもぜひ注目してみてください。

[文・鷺ノ宮やよい]

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