あなたが明日からホームレスになったとしたら――? 都内ホームレス生活体験記

ルポ路上生活
『ルポ路上生活』
國友 公司
KADOKAWA
1,650円(税込)
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"カレー弁当2個・ミニトマト・バナナ・桃2個・漬物弁当・カレーうどん・カレーライス"......これは都内のホームレスが1日に(もらおうと思えば)もらえる炊き出しの食品リストだ。主食のお弁当類だけでいえば、1日5食は確保できるという事実に驚愕する人も多いのでは?

今回ご紹介するのは『ルポ路上生活』(KADOKAWA)。同書はフリーライターの國友公司氏が「ホームレスは一体どんな生活をしているのか?」という疑問を発端に作られた取材ルポでもある。國友氏自身が実際にホームレスとなり、東京都西部(都庁下・新宿西口地下)と東部(上野公園・隅田川高架下)、それに荒川の河川敷で2カ月間を過ごす日々が綴られている。

「都内のホームレスは飯に困ることはまずない。むしろ、飯を取捨選択する余裕すらある」(同書より)

國友氏が実際にホームレスとなって知り得たことは炊き出しの多さだけではない。新宿区役所ではシャワーと洗濯が1日おきに週3回利用できるし、冬は寝袋や毛布・防寒着がNPOによって支給される。

さらに"炊き出し場所に1カ月皆勤すると1000円・2カ月皆勤で2000円"、"新興宗教の研修を受けるだけで1500円"といったように現金がもらえるシステムまであるのだ。ここまでくると真面目に生活しているのがバカバカしくなるが、もちろん「定額収入がない」ことや「家がない」といったデメリットは常について回る。"小屋"や"テント"をベースにしている人もいるがそれはごく一部だ。

ホームレスたちは生活保護を申請することも可能だが、路上からの申請の場合はひとまず生活困窮者を対象とした無料低額宿泊所に一定期間入り、そこからアパートを探すという手順になる。しかしこの無料低額宿泊所には、入居者を囲い込んで生活保護費を詐取するという"貧困ビジネス"も横行しているという。そのため再びホームレス生活に舞い戻る人も少なくない。國友氏は言う。

「ホームレスの幸福度というのは収入によって決まらない。本人の気の持ちようによって決まるのだ。

『もうこれでいい』と現状を受け入れてしまうと、途端に生活にゆとりができる。(中略)彼らが路上で暮らし続ける理由が分かってきたように思う」(同書より)

生活保護を受けたり、缶拾いなどの仕事をすればある程度の収入を得ることは可能だ。食べ物や衣服は配給されるので自分の好きなことだけにお金を使えることになる(ギャンブルですってしまう人が多いようだが)。あるホームレスがこんなことを言っているのが印象的だった。

「言葉が悪いけど昔のホームレスというのは乞食でしょう。今のホームレスはただ家がないというだけなんだけど、昔の考え方で止まっている人が多いんだよね」

「ホームレスという呼び方もそのうち変わるんじゃないかな」(同書より)

同書を読むとわかるが、確かにホームレスは乞食とは全く違う。炊き出し場所は決まっているし、クリーニング屋で受け取り期限を過ぎた衣服などが定期的に手に入る。國友氏はあるボランティア団体に「ピカピカの自転車、すごいね!」とまるで子供をあやすような言い方をされ「舐めるなよ」と思った、と語っていた。東京西部で生活をともにした"黒綿棒"(日焼けした青年ホームレス)も、ギターを披露して"大げさに褒められた"ことで気分を悪くしている。

「恵んであげれば何でも喜ぶ」、「自分に自信がないからホームレスをしている」と思い込んでいるのは世間一般の意識だ。実際のホームレスの意識とあまりにもかけ離れている。しかし新聞やテレビなどのメディアは「ホームレスはかわいそう」という視点で彼らを切り取ることが多く、我々は無意識にイメージを刷り込まれているのかもしれない。人は"見たいように"人を見る。

「どのように生きるのか」という悩みは一般の人もホームレスも大差がないのでは? と思う。どちらも自分自身に向き合いながら生きていることに変わりはない。ただホームレスの世界のほうが"向き合い方"は過酷だ。手配師(ホームレスに仕事を斡旋する人)に「なんでお前は働かないんだ?」と面と向かって問いかけられたり、病気や自殺で亡くなるホームレスたちを目の当たりにする。ホームレス撲殺事件などもあるため、命の危険は常に隣り合わせだ。ホームレス生活を終えたあと、國友氏は同書の担当編集者にこんなことを言われている。

「ホームレス生活中は感覚が研ぎ澄まされた表情をしていましたけど、その辺にいる普通の人間の表情に戻りましたね」(同書より)

ホームレスとして生きることは、自身の人間としての根幹の能力(情報収集・コミュニケーション力・知識・体力など)を突き付けられる厳しい世界であることは間違いないだろう。

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