業界歴20年の葬祭ディレクターが令和時代の新しい葬儀スタイルを提案

三恵社
1,540円
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 2009年ごろに生まれたと言われる「終活」という言葉。現在、それなりに広まり定着しているように思われますが、実際に自身の死に際について具体的に考えている人はどれほどいるでしょうか?

 「自分自身の葬儀のことについて事前に調査している人は少数派」「私の肌感覚では10%もいらっしゃいません」と言うのは、業界歴20年になる葬祭ディレクターの大森嗣隆さん。現在、日本のお葬式の90%以上が仏式でおこなわれているそうですが、その理由は「お葬式ってそういうもんでしょ」と皆が思い込んでいるからだ、と大森さんは指摘します。読者の皆さんも、そう考えている人が多いのではないでしょうか。

 けれど、葬儀にかかる費用は平均200万円。この金額は「周りもそうだから」という理由だけで支払うには高すぎるように思います。こうした「これまでの当たり前」に疑問を投げかけ、令和時代の新しい葬儀を提案しているのが、大森さんの著書『無宗教なのにどうしてお葬式にお坊さんを呼ぶの?』です。

 結論から先に紹介すると、大森さんが提唱するのは「お坊さんのいないお葬式」。葬儀業界には長らく「仏式のお葬式」という安定したビジネスモデルがあったといいます。いわゆる、お寺を模した祭壇があり、僧侶が使用する備品があり、儀式の様式に則った式次第があり......といった葬儀プランです。しかし、無宗教の人が圧倒的多数だとされる日本において、「葬儀だけ宗教儀式でおこなうことにいったい何の意味があるのだろうか?」と大森さんは問いかけます。

 本書には、大森さんが調査会社に依頼しておこなったアンケートが豊富に掲載されており、その中には「お坊さんを呼ばない無宗教形式の葬儀についてどう思いますか?」という質問があります。アンケート対象者は50代から80代で、40%以上が葬儀参列経験者や喪主経験者だそうで、最初におこなった「お葬式をどの形式で行いたいですか?」という質問に、約68%の人が「従来通りの仏式の葬儀を望む」と回答しました。しかしその後、アンケートを通じてお葬式に関するさまざまな知識を知ってもらい、「ご自身の葬儀をあげてもらうなら、お坊さんを呼んでお経をあげてもらうのではなく、お別れ会形式でしてもらいたいですか?」と尋ねたところ、約62%の人が「お別れ会形式が良い」「できればお別れ会形式が良い」と肯定する結果となったそうです。

 つまり、これまでの形骸化されたビジネスモデルや私たちの固定概念から「仏式が当然」と思い込んでいる人が多いものの、「実のところ多くの人が仏式の葬儀に本当はこだわっているわけではない」ということが推測できます。こうしたことも含め、「これからの葬儀はもっと自由であって良い」「新しいお葬式の在り方を望んでいって良い」というのが、大森さんの主張というわけです。本書では、無宗教形式、お別れ会形式、想送式なども紹介されていますので、皆さんもご覧になって新しいスタイルの葬儀について知ってみてください。

 身内が亡くなってから葬儀がおこなわれるまでは数日間しかありません。愛する者が亡くなってショックを受けている中、どのような葬儀をおこなうか事細かに伝えられる遺族は少ないでしょう。残される家族のためにも、そしてこの世を去る自身のためにも、「どういったお葬式をしたいか」を事前に考えておくことの大切さについて、本書を読むと改めて感じさせられます。

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