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上野顕太郎さんの『さよならもいわずに』を読んで、周りにいる人を大切にしようと思った ------アノヒトの読書遍歴:大森靖子さん(前編)

 弾き語りスタイルで活動をする女性シンガーソングライターの大森靖子さん。デビュー前は約8年間にわたって、都内のライブハウスを中心にライブ活動を行ってきました。

 2014年のメジャーデビュー後は、「FUJI ROCK FESTIVAL '14」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」などの野外ロック・フェスティバルにも参加。今年3月には、メジャーセカンドアルバム『TOKYO BLACK HOLE』を発売しました。

 そんな大森靖子さんに日頃の読書生活についてお伺いしました。

------普段はどんな本を手にするのでしょうか。
「普段から私は、漫画を中心にさまざまなジャンルの本を読みますが、中でも最近は、ある一つのメッセージが入った本に影響を受けました。そのメッセージとは、『何かを失って気付くこと』というものです。

------具体的にどんな本に影響を受けたかご紹介ください。
「最近手に取った本の中では、漫画家の上野顕太郎さんの『さよならもいわずに』という本が印象的でした。この本は2010年に発売された漫画なのですが、上野さんが妻を亡くしてしまったことをきっかけに書いたそのお別れの様子と、亡くなってからの生活の様子などを描いた一冊になります。こういった作品によくありがちなのが、結構ドラマチックに描かれたりとか、思い出のきらきらフィルターだとか、その喪失感によってちょっと過剰に描かれてしまうことがあるんですけど、この作品は、タッチもそうですし、絵の吹き出しのセリフもきっと本当のことしか描かれていなくて。すごいリアルで繊細に普通のテンションで描かれているんですよ。それがもうなんか、えもいわれぬ悲しみとか喪失感とかも生むんです」

------大事な人を失ってしまったという内容の本なのですね。
「そうなんです。この亡くなったお嫁さんですが、生前、中島みゆきさんがとても好きだったんです。この本の中で奥さんがカラオケで中島みゆきさんの『あした』という歌を歌うシーンがあるのですが、その際にカラオケの『デンモク』に曲を入力するという描写があります。このように、カラオケで歌うときってデンモクで入れるよなと思えるリアルな描写があるから、余計に『死』っていうものが近く見えるような感覚になります。死というものが生活と地続きにあることがわかるからこそ、周りの人が生きていることを大事にしようってすごく思える感じがします。これは結構温かい本ですね」

------「生」について実感でき、温かい気持ちになれる一冊なのですね。
「はい。あとは、『PP加工』っていうんでしょうか、本の表紙の加工。このぷくってなっているのが大好きなんですよ、私。なのでこの加工のあるお菓子とかが大好きなんです(笑)。この漫画にもこのPP加工がされていて、その部分だけ描写がにじんで涙が落ちているような表紙になっていて。もうすごいね、気に入ってるんですよ。実は私、これまでに手紙を書く機会が多くあったんですが、何か思いがあふれてしまって泣いて文字がにじんでしまったこととかが結構あって。そのにじんだところまでが私の思いだから、これを汲み取ってほしいと思ってそのままの状態で手紙を送ったことがあるんですよ。この本からはそういうエモさを感じさせてくれます」

------この本を読んだ時、どんなご感想をお持ちになりましたか。
「この本を読んで私は、とにかく本当に自分の恋人とかに愛情表現をしようって思いました。上野さんは、おそらく家に帰って自分の好きな人がダラダラしてたりとか、ぶつくされてぶーぶー言っていたらだるいなあとか、そういうのを当たり前にやってきて、そして当たり前のように急に死を迎えてしまったんだと思います。なので、そういう生活も奇跡的なものだなって思いながら生活したいということはすごく思いました」

------ありがとうございます。後編でも、大森靖子さんが影響を受けた本について紹介します。お楽しみに。

<プロフィール>
大森靖子 おおもりせいこ/1987年、愛媛県生まれ。シンガーソングライター。
武蔵野大学在学中の19歳の時、友人のバンドイベントに人数合わせでライブ出演したことがきっかけで音楽の世界に。そのイベントでは、ギターでライブに参加し、すでに書き留めていた曲を数曲披露。以来、毎月ライブを行うようになった。2014年にメジャーデビュー。楽曲のほとんどの作詞・作曲を手掛ける。

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