プロレスにも共通する狂気性への風刺が滲むカルト怪作『デス・レース2000年』
- 『デス・レース2000年 HDニューマスター/轢殺エディション [DVD]』
- デビッド・キャラダイン,シモーネ・グリフェス,シルヴェスター・スタローン,メアリー・ウォロノフ,ポール・バーテル
- キングレコード
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
今回のお題は、低予算映画界の偉人ロジャー・コーマン作品の中でも奇跡の傑作との呼び声もある『デス・レース2000年』(1977)。
退廃的な思想が蔓延る西暦2000年。NYを皮切りに、通行人から競合相手まで構わず轢き殺しながらカリフォルニアのゴールを目指す、大統領主催の大人気スポーツ「デス・レース」が今年も開幕! 筋書き的には、反政府組織が主人公のナビ役に美女スパイを送り込み、レース撲滅&大統領暗殺を狙う......という近未来SF映画ですが、プロレスと相通じる要素がチラホラあります。
まず出場者やマシンのステレオタイプな色分けはいかにも。
カルト俳優デビッド・キャラダイン演じる主人公は、過去のレースで致命傷を負いながらもつぎはぎ移植手術で何度も蘇る「フランケンシュタイン」(車はアリゲーター風)。WWEでいうなら、ほぼ全身の故障を耐え、ゴーイングマイウェイを貫いたオースチン的人気者。
最大のライバルにしてレースの嫌われ者となるのが、巨大ナイフ&機関銃付マシンを操るイタリア野郎「マシンガン・ジョー」。『ロッキー』でブレイク前のスタローン先生が演じたことも本作の語り草です。
他のチームも、ウェスタン美女はバイソン号、ナチス美女は巡航ミサイルの始祖とされる実在飛行爆弾を模した爆弾号ときて、牙付ライオン号の暴君ネロは登場時点でジョバー臭が!
また、殺人対象の年齢や性別によって得点が変わるという設定や、各シーンで不謹慎な笑いを誘う演出が採られているのも特徴。そう、実は風刺コメディなのです。
首位のフランケンなら、病院前に高得点の老人たちが放置されるボーナスチャンス(安楽死デー!)で敢えて(老人が轢かれるのを期待する)医師や看護師を次々轢き飛ばし、得点よりファンを驚かせ楽しませることが大事、という感じ。
最下位で焦る暴君ネロの場合だと、高得点の赤ん坊を狙ったら反政府組織の罠で見事に爆死するジョバーっぷりが際立ちます。
さらにレースを伝えるTV関係者の"マジキチ"ぶりも魅力。
「やった!完璧な即死!」などとハイテンションに口角泡を飛ばし瞳孔開きっぱなしの眼光をギラつかせる実況アナ「ジュニア」は秀逸ですが、司会者のおばちゃんもなかなかの偏りっぷり。
プロレスでは、実況アナが善玉寄り、解説者が悪党寄りに立ってコメントするのが筋ですが(逆の場合も)、本作に出て来るTV関係者は全員"暴力最高!"の立ち位置なので、観る側の"ベビーフェイス"としての倫理観が問われる形になっています。
話の展開的にはナビ役のスパイを愛してしまったフランケンが「暗殺計画なんて興味ない」と言いつつ、男は黙って大統領抹殺......な展開へ。
WWEの入場ステージ周辺乱闘時における「見た目は派手だけど落下地点は超セーフティ」な感じのフィニッシュシーンは、かなりの腹筋アブソート率です。
ただ、エピローグでジュニアがフランケンに吐き捨てる「暴力で人気者になったくせに」という台詞は、本作のテーマである「残虐性を好む人間の本質」を示しているのですが、危険な技やシーンをみせるほど歓喜され人気者となるプロレスにも共通する"ある種"の狂気性を思い出させ、なんだかハッとさせられたのでした。
(文/シングウヤスアキ)
※ちなみにジェイソン・ステイサム主演のリメイク版はカーアクションは確かに凄いけどオリジナル版のテーマをスポイルした凡作でしたが、主演を代えた2作目と3作目はトレホ兄貴を脇に構えたせいか、本来の珍作感を取り戻しています。