プロレスラー出演映画シリーズ:レスラーの体面を守り、虎拳まで繰り出したバティさんの勇姿を観よ!『アイアン・フィスト』
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今回「プロレスラー出演映画シリーズ」としてご紹介するのは、当コラムの常連、バティスタ(デビッド・バウティスタ)が、主人公のライバル的ポジションで出演している『アイアン・フィスト』(2012)。
米ヒップホップ界の大物RZA(レザ)の初監督作にして脚本・主演の本作。無類のカンフー映画好きが高じ、自ら原案の映画を企画。音楽製作で関わった『キル・ビル』撮影現場に潜り込んで映画作りを学び、タランティーノ人脈の協力を得て苦節9年で公開まで漕ぎ着けたそうな。
悟りを開いた黒人主人公が義手「アイアン・フィスト」を駆使して復讐するというファンタジー寄りの世界観や、最新CGIとコミック的ゴア表現が目立つものの、軸となるお家騒動、中国ロケやセット、漢字のクレジットや止め絵のオープニングなどカンフー・武侠映画へのリスペクトが感じ取れる作風。
キャスト面ではラッセル・クロウが重要な役回りで登場しますが、売春宿の女将役にルーシー・リュー、第二の主役に元テコンドー選手のリック・ユーン(『007 ダイ・アナザー・デイ』の北朝鮮軍人役が有名)、敵ボスの右腕役に実際の総合格闘家でもあるカン・リーら、アジア系アクション俳優が多く出演。この辺りはRZA先生のコダワリなのでしょう。
肝心のRZA先生のアイアン・フィスト姿がショボイ(頼りない細身にゴテゴテの鉄拳とレスラーの入場衣装みたいな羽織というミスマッチ感)とか、敵のライオン軍団のたてがみ風のヅラがゴキゲンにダサイとか色々アレですが、本篇中のほとんどの格闘シーンはアジア系俳優が担当しているため、意外なほどちゃんとした武侠映画になっています。
そして、我らがバティは「ブラス・ボディ」なる真鍮の身体を持つ大男役で、主人公の両腕を切断し、恋人まで亡きものにするというおいしいヒールポジション。
格闘シーンでは、パワーボムやジャイアント・スイングを繰り出し、レスラー出演映画のお約束条件をクリア。さらに終盤のRZA先生との決戦中には、まさかのカンフーアクション(虎の構えによる虎拳)が炸裂!
これまでの当コラムのパターンなら珍妙ぶりを指摘する流れだけど、本作では『トランスポーター』シリーズなどの武術監督を務めたその筋の第一人者が振り付けをしていることもあってかなかなか様になってます(ある意味残念です)。
結局、RZA先生が主人公らしく逆転フィニッシュとなりますが、バティさんの顔面だけ風にまみれて飛んでいったので続編があればまた出て来るのかも。
主要キャストによる3つの決着戦という構成、4時間の映像が96分に編集されたという物理的な問題から駆け足感が否めませんが、珍作基準でみれば心地よい素敵な笑い(RZA先生の珍妙アクションをCGでごまかした感は特に高得点)を提供してくれる良珍作。
尚、本作の売り文句のひとつが「タランティーノ・プレゼンツ」ですが、名前を貸してるだけらしいのでタランティーノっぽさを期待しちゃダメだから!
(文/シングウヤスアキ)