板羽皆の人気マンガ『トラさん』が、完全実写映画化!ファンタジーな世界観と感動的なストーリーに命を吹き込んだのは『Sweet Rain 死神の精度』など、独自の手法でファンタジー作品を作り上げてきた筧昌也監督です。本作は、映画初主演となるKis-My-Ft2の北山宏光さんが猫役に挑戦していることでも話題になっていますが、人間が猫を演じる撮影現場は一体どんな感じなのか...?今回は、筧監督に撮影エピソードのほか、影響を受けた映画についてたっぷりお話をお伺いしてきました!
――まず、公開直前の今の心境をお聞かせください。
筧昌也監督(以下、省略)「先日、完成披露試写会だったんですけど、そこでもう僕的にはやや終わっちゃった感じで(笑)好評なようで安心しました。舞台挨拶のときに多部(未華子)さんが、『高校の時に大学のことを考えてしまうように、今を楽しむより先のことを考えてしまう』とおっしゃっていて、その時に僕はすごく心の中で頷いていて。僕も常に先のことを考えちゃう人なので。でも、もっと公開前を楽しんだほうがいいんでしょうね(笑)。
あと今、公開までのカウントダウンで、Twitterで毎日漫画描いているんですよ。プロデューサーたちと新年会をしたときに、漫画を描いてTwitterで公開までのカウントダウンをするっていう話が出て、お酒の勢いで『やります!』って言ってしまって。今考えると、公開までかなり日にちがあったな...40枚くらい漫画描いてるんですよ。それが本当にプレッシャーなので、今の心境としては早く公開してほしいですね(笑)」
――今まさに漫画を描かれているとのことですが、漫画家である主人公の寿々男と自身が重なる部分はありましたか?
「自分がやってるドラマや映画の監督も、作品を作って家族を食べさせてゆくっていう面では漫画家の寿々男とまったく同じ。しかも本作の脚本を作り始めて撮影したその3年の間に、僕は結婚して子どもも生まれたんです。たまたま寿々男とシンクロしちゃって。だから漫画家としての寿々男ではなく、彼自身に重なりました」
――本作は、猫を人で表現するという珍しい作品ですが、猫を演じた俳優さんたちへの演出で苦労したことはありますか?
「猫はいろいろ出てきますけど、やっぱりトラさんが難しかったですね。登場シーンが一番長く、彼を観ていてしんどかったら、映画全体がしんどくなっちゃうので。北山さんには猫のDVDを事前に渡して、仕草をいくつか体得してもらった状態で撮影に入りました。ただ本作の場合は、劇団四季のキャッツみたいなことではなく、もともと人間だったのに猫になっちゃったお話なので、猫のモノマネにならないようにしました。せっかく、人が演じるっていう表現を選択しているのに、あんまり猫っぽくしすぎるのも......。
観てる人が楽しめるレベルなら、いくらでも嘘はついていいと思っていて。だから猫だけど、猫になりすぎないっていうか......ちょっと矛盾してますけど(笑)。寿々男は客観的には猫に見えているわけなので、そのフィルターだけ僕らはちゃんと持って、多部さんと(娘・実優役の)宏々路ちゃんにも『サイズ的に明らかに人間ですけど、猫なんですよ』って信じてもらってました。だから、キーワードは「潔さ」ですね。僕らも俳優さんも、全員潔く。猫自体にこだわるよりも、寿々男の可愛らしさや映画全体のルックを大切にしました」
――ファンタジー系の作品をこれまでも手がけていらっしゃいますが、監督が映画を作る上で最も大切にしていることはなんでしょうか。
「作品によって色々違うので一概には言えないですけどね......。『オープンな』作品にしようとはいつも思っています。テレビドラマをやってる経験もあって、「いちげんさんウエルカム」ということです。原作や配役の文脈がわからない人がたまたま観ても、ちゃんと面白いという部分はすごく気を使っています。自分の演出や手法がマニアックなものが多いからこそ、観終わったときの感覚がマイナーなものにならないように。作品の入口は少し変わった手法だけど、出口は変わっていない。それを"オープンな作品" と総称しているんですけど」
――監督は、映画館によく行かれますか?監督ならではの楽しみ方はありますか?
「僕は多分、良いお客さんだと思います(笑)。日本のお客さんってコメディでもあまり笑わないじゃないですか。でも僕は平気で一人でも笑いますね。なんだったらホラー映画でも怖すぎて笑います。それは、『よくこんなシーン思いついたな』っていう、作り手に対する尊敬の念での笑いです(笑)。あと、職業病かもしれないですけど、面白い映画なのにたまに時計を見ます。うまくいっている作品って、作中で面白いことが起きる瞬間がだいたいタイミングが同じだったりする傾向があって、それを分析しちゃうんですよ。だから面白すぎて時計を見ちゃうっていう(笑)」
――映画監督を目指そうと思ったきっかけになった作品はなんでしょう?
「2つありますね。映画監督っていう存在がこの世にいるんだなって把握したのが『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』なんです。小4のときでしたね。その前にジブリの『天空の城ラピュタ』で衝撃を受けていて。でもラピュタはアニメだけど、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』は、人間が演じているじゃないですか。当時は何もかも知らなかったので、とにかく衝撃的でした。2時間ずっと人の心を掴んで、感動させて、元気さえ沸かせてくれる。これが人間業なのか!?と。最後に物語が終わった瞬間、バン!って監督の名前が出るんですけど、スティーブン・スピルバーグの名前を観たときに、もしかしたらこの人が一番すごいんじゃないかって、何故か子どもながらに思ったんですね。
実際に映画監督を目指すきっかけになったのは、16歳くらいの時に観た大林宣彦監督の『青春デンデケデケデケ』という名作です。それまではインディ・ジョーンズや黒沢映画とかにハマったんですけど、それとはまた違って、あのころの大林監督の映画って普通じゃないというか、王道の撮り方ではなくて。ホームビデオで撮ったみたいな臨場感に衝撃を受けて、それで撮影の仕方を調べました。16mmカメラっていう小さいのを3台同時に回してるんだとか、見るだけじゃなくて「作り方」に興味が湧いたんです。スピルバーグとかだと、雲の上のさらに上の人だし、ファンタジーやアドベンチャーは自分の世界と違いすぎて追求したいという気持ちにならなかったですね。大林監督の映画は、日本映画ということもあり、リアルな中に飛躍があって、自分でも撮れるんじゃないかって錯覚が起きたというか(後に完全な錯覚だったと知りますが)」
――自分の人生観が変わったと思う作品はありますか?
「人生観が変わったというよりも、作風的に影響を受けている映画はあります。沢田研二さんが主演の『太陽を盗んだ男』っていう昔の映画があって、非常に面白いです。これは23歳くらいの時に観たんですけど、映画って面白かったらなんでもアリなんだなって思ったんです。観たことないですよね? 見たほうがいいですよ、人生観が変わりますよ(笑)。僕が生まれた年くらいに、こんな自由ではちゃめちゃなエンターテイメントがあったんだって衝撃を受けましたね」
――最後に読者にメッセージをお願いします!
「『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』は、家族ものとして観られるのはもちろんですが、一方で寿々男と同じくらいの30代、40代の方の働く男性の讃歌になっていると思います。ぜひ楽しんで御覧ください!」
筧昌也監督、ありがとうございました!
(取材・文・写真/トキエス)
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『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』
2月15日(金)全国公開
監督:筧昌也
原作:板羽皆『トラさん』(集英社マーガレットコミックス刊)
出演:北山宏光、多部未華子、平澤宏々路、飯豊まりえ、富山えり子、要 潤、バカリズム
脚本:大野敏哉 音楽:渡邊 崇
主題歌:Kis-My-Ft2「君を大好きだ」(avex trax)
配給:ショウゲート
2019/日本映画/91分
公式サイト:http://torasan-movie.jp/
(c)板羽皆/集英社・2019「トラさん」製作委員会