沖縄を舞台にした映画『ナビィの恋』や『ホテル・ハイビスカス』で知られる中江裕司監督。大学入学と同時に出身地である京都から沖縄へ移住。以降、映画のみならずテレビ番組でも沖縄文化について取り上げるなどし、幅広い映像の世界で活躍し続けています。
現在、最新作のドキュメンタリー映画『盆唄』の公開も控えている中江監督。最新作の見どころから好きな映画まで、たっぷりお話を伺いました!
----まず、2月15日に公開される『盆唄』ですが、どんな作品に仕上がっていますか?
中江裕司監督(以下、中江):福島県双葉町に伝わる伝統の踊り「盆唄」に焦点を当てたドキュメンタリー映画になっています。その中で、東日本大震災やその後に起きた福島第一原子力発電所事故の影響で故郷を離れざるを得なかった、双葉町で育った人たちを追っています。
----今回は沖縄ではなく福島が舞台。
中江:はい。正直僕にはゆかりのない場所なので、実は最初にこのお話が来たときはお断りしたんです。生半可な気持ちで彼らを撮影できないと思いましたし......。ですがその後に、沖縄からハワイへ移り住んだ日系移民をテーマにした作品を撮影する機会があり、彼らが100年以上も前に福島からハワイへ移り住んだ日系移民たちと重なったんです。そこでこの話を最初に持ってきたカメラマンの岩根愛さんの後押しもあって、福島に行ってみるところから始まったんです。
----撮影に3年を要したと伺っています。
中江:最初は「映画になるか分からない」というところから始まって。作品に登場する、双葉町に住んでいた横山(久勝)さんの話を聞いているうちに「これは映画にすべきだ」って気持ちになっていったんです。そこから彼らの心情に触れていき、僕自身たくさんインスピレーションを受けました。まず、彼ら双葉町の人たちは、自分たちが悪いわけでもないのに故郷に帰りたくても帰れないんです。しかも、自然災害なのか人災なのかも分からない状況で、誰に怒りをぶつけていいかも分からない状態。かつ、双葉町に住んでいた人たちは皆バラバラになってしまって。相当辛いと思うんですね。しかし、僕は映画監督として、この「辛さ」を、それがある前提でどういう風に映画を観る人たちに向けて希望とか未来を見出していけるか、という部分とずっと格闘していました。
----この作品を通じて伝えたいことは?
中江:故郷というのは何でも受け入れてくれる場所。故郷があることで人は強くなれると思うんです。しかし、故郷から離れざるを得ない状況にある人もいて人々はそういう歴史を繰り返してきました。世界中すべての人は移民なはずですから。その中で、故郷から離れる辛さを少しでもやわらげるため、人々は故郷の歌を携えていったと思うんです。「盆唄」も正しくそうです。そういったメッセージを作品の中に盛り込みました。
----故郷や文化、人のつながりを描くことが多い中江監督だからこそできた作品というわけですね。ところで、中江監督はどんな映画がお好きなんでしょうか。
中江:小川紳介監督の『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(1987年)という作品。ドキュメンタリー映画なんですが、これはもう最高傑作ですね。4時間という大長編映画なんですが、観ていて「終わらないでほしい」って思うんですよ。もちろん映画なので最後の方になると終わりの気配が漂ってきますが「でも終わらないで」って。「この至福の時を永久に感じていたい」みたいな気持ちになるんです。終わるのがだんだん切なくなってくる映画。これまでに3回くらい観ていて、7〜8年前にスクリーンで観たときは、終わった後、観客は皆大拍手を送っていました。
----作品作りという観点でこの作品から影響を受けた部分もあるんでしょうか?
中江:ものすごく影響を受けています。特に「時間」という部分においてですね。映画『盆唄』では、東日本大震災よりもっと昔、福島からハワイへ移ったときの話。さらに遡って富山から福島へ移ってきた人の話という風に、時間にして約200年を描いています。『1000年刻みの日時計 牧野村物語』は約1000年を描いているので、足元にも及ばないんですけどね(笑)。
----最後に、今後の展望について教えてください!
中江:この年齢になって(※現在58歳)、禅宗的な考え方に非常に興味が出てきたんですよ。「行雲流水」(こううんりゅうすい)という、「自然のなりゆきに任せて行動する」という意味合いの言葉があるんですが、つまり「全てのことは分からない」「今を生きる」ということにつながってくる。これが人間の真理だとは思わないですが、昔の人の考えってこれに近い部分があると思うんです。そんなことを描いた作品が作れたらなぁというのは最近思っていることです。
(取材・文/小山田滝音)
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『盆唄』
2月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開!
監督:中江裕司
出演:福島県双葉町の皆さん、マウイ太鼓 ほか
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/bon-uta/
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