ベストセラー作家・東野圭吾が20年前に執筆した小説で、本人も「映画化など絶対に不可能」と思っていたという、原発テロが題材のサスペンス小説『天空の蜂』が、『20世紀少年』や『SPEC』シリーズを手掛けた日本有数のヒットメーカー堤幸彦監督の手で完全映画化! 「自分でもびっくりするような仕上がりになった!」と大満足の堤監督にインタビュー!
──原作を最初に読んだ感想と、オファーを受けたときの心境は?
「最初に原作を読んだのは十数年前。科学的にとても緻密に書かれていて、東野圭吾さんの理工系の想像力はすごいなという印象でした。その後、映画化にあたって監督をやるとなったときに、改めて1行1行読み直して圧倒されました。果たして俺でいいのか?という気持ちもありましたが、3.11以降の日本の現状を思うと、この作品はきっと必要な作品だと感じました。『20世紀少年』や『はやぶさ/HAYABUSA』もとても難易度が高い作品でしたが、その経験からスタッフと力を合わせて知恵を振り絞れば色んなことが解決できるということがわかったので、逃げてどうするんだという闘う思いと、一緒に作る仲間がいるんだ、という平和的な思いで挑みました」
──文字から映像にする際に苦労したこと、意識したことを教えてください。
「600ページにもわたる原作から何をチョイスするかが一番難しかった。また、原作にはないけれど映画では入れた方がいいのでは?という新たな設定を、流れを崩さないように慎重に盛り込む必要もありました。でも一番は、膨大なセリフの中から大切なセリフを選ぶという作業が大変でしたね」
──父と子のドラマでもありますが、監督のこだわりは?
「核となるのは、原発の安全性やテロの問題などを抱え、結果として何かを犠牲にせざるを得ない企業人としての男の罪深さ。でも、そこに人としてのウェットな部分がほしかった。それで、親子愛の要素を入れることにしたんです。原作では、誘拐される男の子は主人公の子どもではありません。映画ではそこをアレンジして、ハードな作品であると同時に人間ドラマの部分をさらに膨らませ、3.11に遭遇した親子の思い入れを表現したいと思いました」
──原発の設計士・三島役を演じた本木さんに求めたことは?
「観客にばれない程度に、脳内が見えるように芝居してほしいと思いました。そしてポーカーフェイスでいることが大切だとも思いました。例えば、眉をピクッと上げるような小さな仕草の中に、計算高さや恐怖心が見え隠れする。そんな三島を、本木さんならではの表情で演技してくれたことに面白みを感じ、彼の空気感が、作品に緻密さや幅を与えてくれました」
──監督が特に頑張った、お気に入りのポイントはどこですか?
「ビッグBという超巨大ヘリの形ですね。結論からいうと、サンダーバードが大好きなので、サンダーバード2号という感じ(笑)。そして、形が怖くなければならないし、少年が見て驚かなければならないですから、空を飛ぶ何か不気味なものの象徴であるべきだと思いました。誰も宇宙から見たことがないはやぶさや、『20世紀少年』のロボットは、いわば空想科学ですよね。本作のビッグBも空想科学の1ジャンルではあるかも知れませんが、中に入ったときや空を飛んでいるときなどのリアリティを出すのは大変でした。動いてりゃなんとかなるんですが、空中で止まってますからね(笑)。頑張り尽くしたなと思います!」
──主人公の湯原を演じた江口洋介さんが、ヘリコプターから乗り出すシーンでは、CGではなく実写で撮影したいと監督から江口さんに直接依頼したそうですね。そこまでこだわった理由は?
「よくありがちな、「セットを置いて、風を当てればそれっぽい」というものではなく、やっぱり本当に乗っているというのにはかなわないですからね。江口さんは高いところがあまり得意ではないというのはなんとなく聞いていましたが、僕は知らんぷりしてお伝えしました。トム・クルーズばりに頑張っていましたね。地上何百メートルという相当高いところで、丸1日飛んでましたよ。僕なら行かないですね(笑)」
──本作はドキドキ・ハラハラが止まらない、アクションサスペンスですが、監督が今まで見た映画の中で一番ドキドキした作品はなんですか?
「古いですが、『死刑台のエレベーター』という作品です。ドキドキする!ってほどのもんじゃないですね(笑)。監督のルイ・マルさんがまだ20代のときの作品で、すごいなと思います」
堤監督、ありがとうございました!
(取材・文/アヤカ 写真/つかさ スタイリスト/関えみ子 衣装協力/BEAMS)
***
『天空の蜂』
9月12日(土)より全国ロードショー
監督:堤幸彦
出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、柄本明、國村隼 ほか
配給:松竹
2015/日本映画/138分
公式サイト:http://tenkunohachi.jp
© 2015「天空の蜂」製作委員会