記録係として名局を見てきた黒沢怜生五段、NHK杯本戦初出場

左/黒沢怜生五段、右/山崎隆之八段 撮影:河井邦彦
第66回NHK杯戦、1回戦第15局は本戦初出場を果たした黒沢怜生(くろさわ・れお)五段(先手)と、優勝経験を持つ山崎隆之(やまさき・たかゆき)八段(後手)の対局。黒沢五段による自戦記から、序盤の展開を紹介する。
[初手からの指し手]
▲ 7六歩  △ 3四歩
▲ 6八飛   (1図)

* * *


■初出場の喜び

駅に着き、通い慣れた道を歩く。ようやくこの日が来たなと喜びがあふれてきた。
私は第62回から64回のNHK杯戦の記録係を務めさせていただいた。思い出はたくさんあるが、記録係のデビュー戦と最終戦は特に衝撃的だった。
前者は豊島―佐藤紳戦。後者は行方―橋本戦である。将棋ファンならこの対戦で何があったかお分かりだろう。
先手になり、角交換四間飛車の出だしに。棋士になった原動力のこの作戦に初戦を託そう。そんな想(おも)いで飛車を振った。 

■山崎八段との出会い

対戦相手の山崎八段と初めて出会ったのはもう15年ほど前になるだろうか。毎年、熊本で行われている寺子屋合宿に、少年時代に参加したときの講師の一人が山崎八段だった。優しく、時には厳しく接していただいた。将棋の講義をする姿がかっこよく、今でも印象に残っている。子供たちが憧れるのは当然で、合宿が終わると参加した生徒は皆、山崎ファンになっていた。
振り飛車に対し、端の位を取り、玉の囲いを後回しにするのが山崎流。私は予定の穴熊で正面から受けて立とうとした。
 
 

■独創的な指し方

解説は師匠の高橋道雄九段。いつもあたたかく見守ってくださっている。私は成長した姿を見せたいと意気込んでいた。
感想戦で山崎八段が「穴熊にされたのは意外だった。穴熊は指さない印象だった」とおっしゃったが、実は穴熊を指し始めたのは最近。始めた理由は、穴熊を指さないと思われると対策が立てられやすいという欠点をなくすためだ。
△4四角〜△3三桂〜△2二飛(4図)も山崎八段ならではの独創的な指し方。普通は△4二玉からの居飛車が自然だろう。


※投了までの記譜と自戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2016年9月号より

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