バレンタインデーの悲喜こもごもで一句

2月14日は「バレンタインの日」。海外発祥の行事ながらも、日本でもすっかり浸透し、俳句の季題にもなっています。「玉藻(たまも)」主宰の星野高士(ほしの・たかし)さんが、「バレンタインの日」を詠んだ句を紹介します。

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俳句は今や世界各国に普及し、各国の言葉で作られています。一方で、海外の行事などが日本に移入され、その結果俳句の季題となったものもあります。クリスマスが代表例ですが、今回の「バレンタインの日」も同様で、季題として一句にすることも定着してきたように思います。二月十四日のことで、三世紀にローマで殉教した聖バレンタインの記念日ですが、日本では女性が男性にチョコレートをプレゼントする習慣が根付いています。
ともかく「バレンタインデー」は面白い行事です。この歳になると本命チョコは貰(もら)えませんが、お洒落(しゃれ)な義理チョコを貰うのは楽しみです。最近では、男性から贈る“逆チョコ”や自分のために買う“自己チョコ”などもあるそうです。
いつ渡そバレンタインのチョコレート

田畑美穂女(たばた・みほじょ)


バレンタインデーの例句の中で、最もバレンタインデーらしい句です。女学生を想像しました。いつまでも迷っているばかりで、なかなか渡すことができません。いつ渡してもチョコレートの価値は変わらないと思うのですが、そこを気にするのが乙女心なのでしょう。
はゞからずバレンタインの贈りもの

中村芳子(なかむら・よしこ)


こちらは大人のバレンタインでしょう。恋人というよりは、すでに結婚している人の句です。実際の態度としては、はばからず大胆(だいたん)な様子ですが、「はゞからず」という上五(かみご)からは、心の内に恥ずかしさを隠していると、読み取れます。
何事もおこらずバレンタインの日

原田清正(はらだ・きよまさ)


妻からも娘からも貰うことのできなかった父親だと思いました。何もないと分かりつつも、少し期待をしてしまうのが、男心です。この後、友人が娘からチョコを貰った話などを聞くと、さらに寂しい気持ちになってしまいます。
■『NHK俳句』連載「日常の移動を詠む」2016年2月号より

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