知念かおり四段、臨月でのタイトル奪取を振り返る

撮影:小松士郎
愛くるしい笑顔でプロ入り時から「ニコちゃん」の愛称で大人気。そして実績面でも女流本因坊4期、女流棋聖5期の実力者──女流碁界の歴史に確かな足跡を残した知念かおり(ちねん・かおり)四段の登場である。
ハイライトはやはり何と言っても「臨月でのタイトル奪取」と話題になった、1997年の女流本因坊戦であろう。その舞台裏を語ってもらった。

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■臨月での初タイトル

1997年、再び女流本因坊戦で挑戦権を得ることができたのですが、実はこの年に結婚していて、このときはお腹に長女がいたのです。挑戦手合が始まるときには妊娠9か月でした。
五番勝負の最中に生まれるかもしれないということで、周囲はかなり心配だったみたいですが、私自身は「大丈夫だろう」という気持ちのほうが強かったですね。でもまずは「無事に終われば」という気持ちが第一──だからでしょうか、このシリーズは本当に無心で戦えたように思います。
吉田美香さんに対し2年越しのリターンマッチでしたが、2勝1敗で迎えた第4局でいよいよ臨月に…。かなりお腹が張ってきてしまってお昼の休憩時間は自室で横になって休んでいました。でも「お腹に味方がいるんだ」という気持ちにもなれて力強く思えるなど、精神面は安定したので、碁に影響が出ることはありませんでした。
この第4局で勝ち、初タイトルを獲得することができたのですが、自分の力以上のものが出た五番勝負だったように思います。直後は全く実感が湧かず、時間がたつにつれてようやくという感じでしたが、何よりも沖縄の方々にいい報告ができたことが、私にとっては最もうれしいことでした。
このあとに無事、出産することができましたが、それ以降は毎日があっという間でした。当然、碁盤に向かう時間も少なくなったので、手合が勉強という感じに…。でもその分「対局の時間がありがたい」とも思えるようになりました。その後、女流本因坊を3連覇し、女流棋聖も4連覇できたのは、そのように子育てと手合とのバランスがうまく取れていたからかなと思います。

■今がいちばん楽しい

今は謝依旻さんや向井千瑛さんをはじめとして若い世代が本当に強く、間違いなくレベルアップしています。
さらに藤沢里菜さんなど十代の人たちもどんどん出てきていて、私の子供と年齢が変わらない彼女たちを見ていると「本当に努力しているなぁ」というのが伝わってきます。まるで親のような気持ちになってしまい、彼女たちを応援せずにはいられません。
その一方で私も、子供たちが大きくなって手が離れてきたので、自由になる時間も増えてきました。ですから「もう一度、頑張ってみようかな」という気持ちになっています。とても新鮮な感覚で、今が「碁盤に向かっているのがいちばん楽しい」と思えているかもしれません。
現在、女流本因坊が通算4期で、女流棋聖が通算5期なので、周りの人たちから「頑張ってあと1回タイトルを取って、通算10期に」と言われることが多くあります。そのためにもたくさん勉強して、タイトル戦に出ていきたいと思っています。
■『NHK囲碁講座』2015年11月号より

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