お洒落な「白靴」を俳句に詠むと……

『NHK俳句』では、「玉藻(たまも)」主宰の俳人・星野高士(ほしの・たかし)さんが、毎月の兼題に沿った俳句を紹介しています。2015年7月号の兼題は「白靴(しろぐつ)」です。

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俳句は写生が大事です。しかし難しいのはただの報告に、あるいは日記になっていないかです。
いい視点であっても、作者の意思が読者に伝わらなければ、その句は一人よがりで終わってしまうのです。
目に見える季題、心で感じる季題等いろいろとありますが、今回の白靴は目に見える季題ですので、感情をどう入れるかが難しく、またおもしろいところでしょう。
さて、近頃はお洒落(しゃれ)な白靴を履(は)いている方を見かけることが少なくなりました。そんな中、服装に気を使われる方が履きこなしているのを見ると、涼やかな気分になります。
 
白靴を踏まれしほどの一些事(いちさじ)か

安住敦(あずみ・あつし)


白靴最大の欠点は汚れが目立ちやすい事です。せっかく履いた白靴を踏まれてしまっては、台無しです。些事といえば些事なのですが、何となく収まらない怒りが伝わってきます。
白靴に日のとんでくる歩みかな

嶋田一歩(しまだ・いっぽ)


飛んで来ると言いたくなるほどですから、かなり強い日差しなのでしょう。実に夏らしい光景です。こんなに日差しが強いと、ぐったりとしてしまいそうですが、下五(しもご)の「歩みかな」という表現からは、確固とした意思を持って歩いている様子がうかがえます。その意思は、白靴がちょっと特別な履物であるという事からも滲(にじ)み出ています。
白靴をはいて刑事と思はれず

松岡(まつおか)ひでたか


作者は元刑事です。尾行か張込みでしょう。白靴は涼やかな物ですから、生地は薄めで軽々としています。刑事が身に着けていそうな物ではありません。もちろん、私は張込みの経験がないので保証はできませんが、白靴を履いていれば、確かに刑事とは気がつかれにくそうです。
白靴の男出できぬ司祭館

星野麥丘人(ほしの・ばくきゅうじん)


この句の「きぬ」は「連用形+ 完了の助動詞〈ぬ〉」で「出て来た」という意味の「きぬ」です。「夏は来(き)ぬ」と同じです。教会などのキリスト教系の施設は白壁のイメージがあります。この司祭館も白いのだろうと思います。そこからこの男が出て来たのです。きっと司祭だろうと思います。さらに、単なる男と表現されている事から、この司祭は私服姿ではないかと思います。
先ほどの句の刑事は、仕事中であっても刑事と気づかれませんでしたが、こちらの句では、仕事外であっても白く清潔な司祭の雰囲気(ふんいき)を備えています。白靴という季題を通して、職業の特徴がありありと浮かび上がっています。
■『NHK俳句』2015年7月号より

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