世界を揺るがしたFIFA汚職......2002年日韓W杯招致も札束が飛び交っていた!?

電通とFIFA サッカーに群がる男たち (光文社新書)
『電通とFIFA サッカーに群がる男たち (光文社新書)』
田崎 健太
光文社
821円(税込)
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 昨年、サッカーファンをはじめ世界中の人々を驚かせた「2015年FIFA汚職事件」。かねてより、ワールドカップやオリンピックなど大規模なスポーツ大会の招致活動では「札束が飛び交っている」と囁かれていましたが、ついに捜査当局(起訴は米FBI、家宅捜索・逮捕はスイス当局が実施)がFIFA(国際サッカー連盟)という巨大組織に乗り込む事態となりました。

 そして、日本人にとって気がかりなのが、日韓共催となった2002年ワールドカップでも同様の行為があったのではないか、という点。ロナウドやオリバー・カーン、デヴィッド・ベッカムの活躍、そして日本代表チームの躍進など、私たちを楽しませてくれ、そして感動もさせてくれたあの大会の裏に汚職があったとしたら......信じたくない方も多いのではないでしょうか。

 しかし、ノンフィクション作家の田崎健太さんは著書『電通とFIFA』で、スポーツマーケティング企業のISL社(スイス)が、8億円もの資金をFIFA理事へのロビー活動に使っていたと指摘しています。同社は元々、アディダス創業者であるアドルフ・ダスラーの息子であり、その跡を継いだホルスト・ダスラーと電通によって設立された企業。電通は1995年の時点でISLの全株式を売却しましたが、ISL自体はその後も日本のワールドカップ招致活動を手伝っていました。

 同書ではISLのロビー活動について、次のように記されています。

「あるFIFAの理事が日本に来た時、彼は出迎えに来た自動車をいたく気に入った。日本の関係者はその車を贈ることにした。彼の住んでいる場所までは適当な船便がなく、途中から陸送しなければならず、車両価格より運送費の方が高くなってしまったほどだった」(本書より)

 もちろん、日本側がロビー活動をしていれば、招致レースを争っていた韓国も黙っているはずがありません。同書は続けて、韓国側の活動についても説明します。

「海の見える丘にあるレストランに彼(註:日本から車を贈られた理事)から招待された。理事は港に停泊してあったクルーザーを『あれは私のものだ』と指さした。その豪華なクルーザーをよく見ると、船体にはハングル文字が書かれていた。それは韓国の鄭夢準からの贈り物だった」

 電通からISLに渡った8億円について、後々、日本の国税当局から「電通が欧州で資産隠しをしているのではないか」と疑われたそうです。その際、電通の担当役員であった高橋治之氏は「(国税当局に)ロビー活動とは何かという話から説明しなければならなかった」「(FIFA理事に)お金をデリバリーしているかもしれない。しかし、電通側としては一切タッチしていない。ISLに任せている」と調査官に話したことを、田崎さんに証言しています。

 結果、不正蓄財疑惑の追及はなくなりました。また、高橋氏の説明をそのまま受け取れば、ロビー活動費をただちに「賄賂」であるとは言い切れないかもしれません。しかし、残念ながら2002年のワールドカップ招致においてお金のやり取りがあったという事実は、揺るがないようです。

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