J-WAVE「BOOK BAR」×BOOKSTAND
アノヒトの読書遍歴 加藤ひさしさん(The Collectors)(前編)
「中学生の時にレイ・ブラッドベリにハマりましたね。『華氏451』というSF小説があって、"451"という数字は本が燃える温度なんですよ。これがなんとも近未来を予想して書かれていて。本って人々に知恵を与えるわけですけど、知恵がある人間は政府としてコントロールしにくい。だから小説の世界では本が禁止なんです」
――ディストピア的要素に惹かれたのでしょうか?
「そうそう。特に面白いのが、普通"ファイアーマン"っていうと消防士で火事を消す人でしょ? でも本の中では本を燃やす人なんですよ。"あの家にこういう本が隠してある"って密告を受けると、ファイアーマンがそこに急行して本を燃やしちゃう。そんなゾッとする話ですけど、ラストは素晴らしい感動が待ってます」
――加藤さんの音楽はビートルズをはじめとするブリテッシュロックからの影響が強い気がするのですが、小説も海外のものがお好きですか?
「僕が子どもの頃は、イギリスだとスウィンギング・ロンドン(60年代のイギリスで起こったユースカルチャーの名称)。音楽にしてもファッションにしても時代を作っていたのがロンドンだった。自分の部屋に貼るポスターも日本のアイドルじゃなくて、当時の『PLAYBOY』の白人女性のグラビアを切り抜いて貼ったりしてました。海外のもの、欧米のものがとにかくカッコいいって思って、SF作品も星新一さんとか、日本にも素晴らしい人がたくさんいますけど、僕は翻訳ものを好んでましたね」
――中学時代から本も映画もSF作品が大好きだという加藤さん。最近読んだお気に入りの本は?
「『エリア51』という本で"世界で最も有名な秘密基地の真実"という副題がついているんですけど。僕が高校生とか中学生の頃って、UFOとか宇宙人のテレビ特番がたくさんあったりして、"エリア51"という名前はよく聞いていたんです。だから自分の中に"この広い宇宙、他にも生命体がいる"ってロマンは昔からあって。でも最近出たこの本を読んだら、エリア51はとんでもない軍事施設で核施設的な場所だって本では断言しているんです。で、それを読んだ瞬間長年もっていたロマンが消えました(笑)。ただ、この本に書いてあることがすべて真実でないにせよ、近年でこんなにショックなことはなかったですね」
――知ってはいけないことを知ってしまった......みたいな?
「そうそう。震災から2年たちますけど、自分が(震災を)体験したのは初めてだし、こういう体験をしたが故に、国の在り方とか政府の動きがつぶさに見えてくるじゃないですか。実際、伏せていた情報があったとかニュースで観たりするし。そういう不安がある状態でこの『エリア51』を読んで、"これはあり得るんじゃないか!?"って。ぜひ読んで欲しいです」
次回は、歌詞を書く上で影響を受けた本、人生を変えた本ついてお聞きします。お楽しみに!
取材・文/花井優太
《プロフィール》
加藤ひさし(かとうひさし)
1960年生まれ、埼玉県出身。バンド『THE COLLECTORS』のリーダー、ボーカルとして1987年にデビュー。同バンドのほぼすべての楽曲で作詞作曲を担当。また、矢沢永吉の詞を手がけるなど、作詞家・作曲家としての提供作も多数。2013年1月、サウンドはUKロック色濃く、歌詞は震災の影響も強いニューアルバム『99匹目のサル』をリリースした。