白戸家の犬のお父さんと重松清の『とんび』の父親との共通点は?

とんび (角川文庫)
『とんび (角川文庫)』
重松 清
角川書店(角川グループパブリッシング)
679円(税込)
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 最近、"お父さん"と聞くとソフトバンクのCMでおなじみの犬のお父さんを思い出す人も多いかもしれません。なぜ、あのお父さんが人々に支持されるのか。それは、昔気質の頑固な親父像を体現した存在だからではないでしょうか。

 作家・重松清氏はたくさんの父親たちを描き、人間をあたたかい目で見つめてきました。なかでも、今月文庫化された『とんび』は、作家本人が自分の"お父さんもの"の原点と話す小説です。

 以前答えたインタビューで、この作品を執筆したきっかけを、「昭和のお父さんを描きたかったから」と答えた重松氏。自身が40代半ばになり、"平成のお父さん"になったことで、自分の親たちが子供をどのような思いで育ててきたのかを考えたかったといいます。昭和の父親は何をぶれずに持ちつづけ、何を息子に伝えたかったのでしょうか。

 舞台は昭和37年の瀬戸内海の小さな町。運送会社に勤めるヤスと妻・美佐子の間に、息子・アキラが生まれます。家族をもつことの幸せをかみしめていたヤスさんに、突然悲劇が襲って......。

 タイトルの由来は「とんびが鷹を生む」のことわざです。"とんび"のヤスさんが出来のいい息子をもち、不器用ながらも愛情いっぱいに育てていきます。時にその頑固さゆえに、嘘をつき、やせ我慢をする父親に読者はハラハラさせられたり、泣かされたり。子供を守るだけが親の役割ではない、ということを昭和の男は教えてくれます。

 重松氏は読者が父親像の正解をこの物語に求めると、間違っていると思うこともあるだろうといいます。とことん、まっすぐでまっとうな親父。作者にとって本当に特別な存在になったという主人公は、読み手にとっても同じく印象深い人物になるでしょう。

 来年1月にはNHKでドラマ化が予定されています。出演は堤真一、小泉今日子ら。こちらと本を見比べ、読み比べてみるのも味わい深いはずです。

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