「私のウリは低賃金で働けること」高学歴者を襲うコモディティの波

僕は君たちに武器を配りたい
『僕は君たちに武器を配りたい』
瀧本 哲史
講談社
1,944円(税込)
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 皆さんは、牛丼チェーンに行くとき、何を重要視していますか?

 吉野家や松屋、すき屋といったブランド? それとも、いかに安い値段でお腹いっぱい食べられるか?

 多くの消費者の基準は、「少しでも安い方が良い」ではないでしょうか。そのことを知っている牛丼チェーンは、10円・20円でも他社よりも安くと、激しい競争を続けています。

 書籍『僕は君たちに武器を配りたい』の著者・瀧本哲史氏は、この状態を「コモディティ市場の典型」といいます。経済学・投資の世界では、市場に出回っている商品が個性を失ってしまい、消費者にとってどのメーカーのどの商品を買っても大差のない状態のことを「コモディティ」といいます。昨今の牛丼チェーンはどこも限界まで利益を削って、値下げすることでしか、他社との差別化ができていません。ワタミやモンテローザなどを経営する企業が、全品300円以下で展開して、しのぎを削っている居酒屋チェーン業界でも、同じ状態がみられます。

 そんな「コモディティ」ですが、瀧本氏は「コモディティ化するのは商品だけでなく、労働市場における人材の評価においても、同じことが起きている」といいます。

 これまでの人材マーケットでは、資格やTOEICの点数といった、客観的に数値で測定できる指標が重視されてきました。しかし、そうした数値は、極端にいえば工業製品のスペックと何も変わりません。同じ数字であれば、企業側は安く使える方を採用するもの。だから、コモディティ化した人材市場でも、応募者のなかで「どれだけ安い給料で働けるか」という給料の値下げ競争が始まるのです。つまり、スペックで自分を差別化しようとする限り、コモディティ化した人材になることは避けられず、高学歴者であっても「安いことが売り」という人材にならなくては、採用を勝ち取れなくなってしまうのです。

 では、どうすればこのコモディティ化の潮流から逃れることができるのでしょうか。瀧本氏は一つの答えを用意しています。それは、「スペシャリティ」になること。

 「たとえばあなたが調理師学校を出たコックだとして、誰かが経営するレストランの一従業員として働き、先輩やチーフから命ぜられるままに料理を作って毎日を過ごしているのだとしたら、コモディティである公算が高い。そうではなくて、あなたの作る料理を目当てにしていたり、あなたが接客するからこそ来店するお客さんがたくさんいて、レストランの経営に多大な貢献をもたらしているのであれば、スペシャリティなコックであるといえる」(瀧本氏)

 スペシャリティとは、「ほかの人には代えられない、唯一の人物(とその仕事)」「ほかの物では代替することができない、唯一の物」のことです。つまりは、コモディティの正反対です。

 しかし、スペシャリティの地位は決して永続的ではないことも理解しておく必要があります。ある時期にスペシャリティであったとしても、時間の経過とともにその価値は減じていき、コモディティへと転がるもの。

 まずは、どんな要素がスペシャリティとコモディティを分けるのかを理解する必要があるのではないでしょうか。その理解がなければ、どれだけハイスペックなモノやサービスを生産していても、コモディティの枠に入れられ、一生低い賃金に留まってしまう恐れがあるのです

 ビジネス本が火をつけた勉強ブーム。何を学ぶべきなのか、本当に理解している人はまだほんの一握りなのかもしれません。

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