J-WAVE「BOOK BAR」×BOOKSTAND
アノヒトの読書遍歴 今野敏博さん(前編)
経営者の必読書はSF!?
電子書籍専用端末「Reader」向けストア「Reader Store」や、auスマートフォン向けストア「LISMO Book Store」など、様々な電子書籍ストアへプラットフォーム提供を行っている「ブックリスタ」。その代表を務める今野敏博さんは、前「レコチョク」代表。CDからダウンロードへと音楽の購入スタイルを新たなステージへと導いたこの道のプロであり、今度は「ブックリスタ」を通じて、紙と電子の共存という次なる"本"の形を、本格的に追求している。
そんな今野さんの本にまつわる話。まずは幼少期から今に至るまで、今野さんが愛し続けているSF小説と漫画の話からお届けします!
「今の世の中から飛び出して、違うところに視点を置ける。SFや漫画を読んでいる時のそんな感覚に、すごく惹かれたんだと思います。今という時代にどっぷり浸かりきっていると、自分たちのことがよく見えなくなってしまいますから。特にSFは非常に離れたところからの視点を与えてくれる。自分たちってこうなんだ、人類ってこうなんだと、広い視野で"今"を見るきっかけになるんです」(今野さん)
現代を見渡す広い視点を得るきっかけとしての、SFや漫画。今野さんがSFの面白さに覚めたのは、小学生の頃に読んだ筒井康隆さんの『時をかける少女』だった。
「ものすごく感動したのを覚えています。今でこそ、いろんなところでタイムトラベルという概念が使われていますが、僕が初めてタイムトラベルを知ったのは小学生の時に読んだこの本でした。物語のなかで、主人公がラベンダーの香りを嗅いでタイムトラベルをするのですが、この本を読んで以来、ラベンダーは僕にとって特別な香り。そんなちょっとしたことも含めて、人生のなかで本から受けた影響はかなりありますよね」
その後数々読んできたSFのなかでも、ことあるごとに何度も読み返しているのが、アーサー・C・クラークの『幼年期の終り』。
「今年は『SUPER8』や『カウボーイ&エイリアン』など、宇宙人が襲来する映画がすごく多いですが、宇宙人が巨大な円盤でやって来て都市の上に君臨するという発想の原点が、この作品にあると思うんです。50年以上も前に書かれた作品ですが、読むたびに人類とは何だろう?ということを思い起こさせてくれる。素晴らしい作品だと思います」
一方で予備校生の頃、毎日折れそうだった心を刺激してくれたのは、あの名作漫画。
「『あしたのジョー』です。真っ白に、灰のように燃え尽きるジョーの姿を見ながら、確かに僕はそこまでやってないよなぁって。単純な気持ちではありましたが、非常に力づけられました」
さらに『あしたのジョー』は力石以降が素晴らしいと力説!
「恐らくみなさんは『あしたのジョー』といえば"ボクシング漫画"だと思っていらっしゃると思うのですが、僕にとっての『あしたのジョー』は"恋愛漫画"なんです。もちろん矢吹ジョーと白木葉子の恋愛ですが、全20巻あるうちの、特に19巻の一番最後のシーンが最高です。世界チャンピオン戦に向かおうとするジョーを、白木葉子が止めるシーン。パンチドランカーになって死ぬかも知れない試合だったからですね。そしてそこで初めて、愛の告白をするんです。これがもうたまらない! 映画にもなった力石徹との戦いが一番有名ではありますが、『あしたのジョー』はそれ以降の話が目茶苦茶いいんです!」
また、『寄生獣』や『サイボーグ007』など、昔ハマッた漫画を電子書籍で再び読み直しているという今野さん。
「『寄生獣』は10年ほど前にハマッて繰り返し読んでいましたが、最近になって電子書籍で配信されていたものをまた読み直してみたんです。ご存知の通り、地球外生命体に寄生された男の子とその地球外生命体の友情の話ですが、10巻のうち9巻の最後がものすごく泣ける。当時も今も同じ箇所で泣いてしまうんですよね。一方の『サイボーグ007』は、サイボーグ007が最後に宇宙空間から仲間と一緒に地球へ落ちてくる時に流れ星になるという非常に印象的なシーンがあります。これも最近読み直して気付いたのは、実はレイ・ブラッドベリの『刺青の男』という短編集のなかのワンシーンをモチーフにしていたのではないか、ということ。ただ僕は『刺青の男』よりも『サイボーグ007』の方がずっと面白いと感じました。いろんなものからの影響はあるにせよ、それをさらに消化して素晴らしいものに作り上げていた石ノ森章太郎さんはやっぱりすごいなと。そういうことがわかって、『サイボーグ007』がさらに好きになったんです」
新たな発見もあれば、時を経ても変わらない自分の根っこに対する気付きもある。好きだった本を読み返すことで得られるものは、けっこう大きいのかも知れない。
「実はこういう体験こそ、デジタルが自分たちに与えてくれるものではないかと思っているんです。在庫という概念が無いので品切れで買えないこともないですし、種類がもっともっと増えてくれば昔の本も手に入れやすくなりますから。紙の本と電子書籍の組み合わせとして、こういった付き合い方も面白いと思うんです」
確かに、きっとこれからは紙と電子が共存しながら、本の楽しみをより濃くしてくれるに違いない。
後編は、電子書籍で読書スピードが上がった話! 遅読のみなさんは特に、お楽しみに!