連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】第24回 例え世の中がどうなろうと、しんちゃんはゴールデン・ウィークにケツを出して下品なギャグを飛ばすだろう。

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●そいつは恐竜映画の翌週に登場した。

 「今年のクレヨンしんちゃん、今ひとつの出来だったねえ」。そんなやりとりを同業者や類似業者と交わして、ふと気がついた。我々は、いつから『クレヨンしんちゃん』シリーズに、映画としてのクォリティを求めるようになったのか? 言っちゃあなんだが、たかだかお子ちゃま向けのアニメ映画ではないか。メインの客層である子供たちが、上映時間中楽しく過ごしてくれればそれで用は足りるはずだ。

 この映画がスタートしたのが1993年7月24日。かの『ジュラシック・パーク』が公開された翌週のことだ。当時CG製の恐竜が画面狭しと暴れ回るスピルバーグ監督の新作に、日本中がぶったまげた。ところがその翌週、春日部の幼稚園児が破天荒な行動と下ネタ上等なギャグを連発させるこのシリーズの第1作が映画館に登場。日米映画状況のあまりの落差に国民は呆然としたのであった(想像)。夏休み、しかも洋画系での公開とあって、当時の東宝としては恐竜たちの片足に噛みつくぐらいの興行的野望はあったかもしれない。

 その野望は現実となった。『クレヨンしんちゃん/アクション仮面VSハイグレ魔王』は、興行収入22.2億円をあげるヒットとなり、シリーズ化が決定。しかも第2作は邦画系(邦画系と洋画系の違いがわからん人は、拙著『映画を知るための教科書 1912−1979』を読んでくれい)でゴールデン・ウィーク公開となり、シリーズ第2作『ブリブリ王国の野望』も興収20.6億円を計上し、東宝系のゴールデン・ウィーク番組として定着した。以後毎年1本ずつこの時期に新作を公開していくのだが、シリーズの宿命というか、興行収入は画に描いたような右肩下がりを見せることになる。関係各社ではその挽回策を協議。その結果、従来5〜6週間の興行であったのを休日が集中する3週間に限定し、内容面ではこれまでどちらかいえばゲストの描写が多かったものが、主人公であるしんちゃんと野原一家の活躍を増やすことになった。


●『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は高く評価されたが・・。

 その効果が現れたのは、2001年4月に公開された『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』だ。興行収入も前作の10.7億円から14.5億円と大幅アップ。またこの作品は世界を20世紀の時間に逆戻りさせようとする組織と野原一家が対峙するという内容で、原恵一監督の着眼点のユニークさが、映画評論家や知識層から絶賛されることになった。これまでケツを出したり下品なギャグを飛ばしていた幼稚園児が、ちょいと知的な映画のキャラクターとして注目されるようになったのだ。かくいう筆者もこの映画は面白いと思うし、好きかきらいかで言えば「好き」と答える。ただ、このシリーズをずっと見て来た人間としては、突然のこうした評価や評判には戸惑うことのほうが多かった。この作品で初めて「クレヨンしんちゃん」に接した人が、このシリーズに「オトナ帝国」的な要素を求めるのは違うと思うのだ。あくまでこれはシリーズの中の異色作という位置づけが相応しく、このシリーズは春日部の幼稚園児がケツ出して、下品なギャグを毎回連発するものなのだ。
 その「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の惹句がこれ。

 「未来はオラが守るゾ!」
 「父ちゃんがヘンだ! 母ちゃんもヘンだ!
   大人を子供に戻しちゃう"オトナ帝国"
      日本中がおバカになっちゃった!」

 この惹句を読んでほっとした。いつもの「クレヨンしんちゃん」だ。その異色作ぶりを宣伝で訴えようとして、いつもよりお利口そうな、イメージ優先な惹句を使うことなく、いつもの観客に訴えかけているあたりがうれしいではないか。


●シリーズ一番の名作といえば『−アッパレ! 戦国大合戦』だ。

 うるさ型の映画ファンや、抽象的な言葉をこねくり回す知識層に、妙な感じで受けてしまった『−オトナ帝国の逆襲』よりも、「クレヨンしんちゃん」というフォーマットを活かした傑作、いや既に「名作」と呼ぶに相応しいのが、2002年に公開された『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』だ。

 前年に続いて原恵一監督が手がけ、しんのすけがタイムスリップして戦国時代に来てしまう。そこで出会う侍・又兵衛と、彼が慕う女性・廉。しんちゃんを追いかけて来た父ちゃんと母ちゃんも巻き込んで、戦国ラブラブ大騒動が繰り広げられる物語だ。

 いつものドタバタ・お下品ギャグ満載の「しんちゃん」と思いきや、それだけではない。笑いもあるが、この映画には何よりも感動がある。さらに「オトナ帝国」とは違う意味で、作品のクォリティが高い。つまり前作が変化球だとしたら、本作は直球。こと「クレヨンしんちゃん」というコンテンツに求められる要素はすべて網羅しており、その上でタイムスリップ恋愛活劇が描かれているあたりが持ち味だ。そのクォリティの高さは第6回文化庁メディア芸術祭・アニメーション部門大賞、第57回毎日映画コンクール・アニメーション映画賞など各賞を受賞したことで立証された。その名作『クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』の宣伝惹句がこれだ。

 「歴史を変えるおバカ参上!」
 「しんちゃんが戦国時代で人助け?
   恋に戦に大奮闘! 歴史的おバカ騒動記。」

 いつものように、気負ったところがまったくない軽快な惹句だ。それでもこの短いフレーズの中で、今回の作品のセールスポイントがきちんと語られているあたり、シリーズ作品のお手本とするべき出来だと言えよう。


●非日常的な開放感を楽しむシリーズなのである。

 「クレヨンしんちゃん」シリーズは、今年ゴールデン・ウィークに公開された「襲来!!宇宙人シリリ」で25作目を迎えた。「オトナ帝国の逆襲」「戦国大合戦」のように、そのクォリティがクロウト筋に高く評価された作品もあれば、「あれれ?今回のは今ひとつですなあ」とガッカリした作品も何本かある。それでもしんのすけは相変わらず下品なギャグを飛ばし続け、大画面で尻を出し続ける。作品の評価がどうであろうと、オラには関係ないとばかりに。そして「クレヨンしんちゃん」シリーズとは、そうした非日常的な開放感を、子供も大人も楽しむための映画なのである。その気負いのなさは宣伝惹句に象徴されており、間違っても「日本中が泣いた!!」とか「シリーズ最高傑作!!」と大げさな謳い文句を掲げることはない。例え世の中がどうあろうとも、しんちゃんは毎年ゴールデン・ウィークに公開される新作映画の中で、見たくもないシリを見せつけることだろう。あくまでマイペース、あくまでしんちゃん目線。高揚感より脱力感。それこそが「クレヨンしんちゃん」シリーズの本懐なのである。
 さて、その最新作の宣伝惹句はどうかと言えば・・。
 
 「シリあったら最強!!」

 これで、いいのだ。 

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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