デビュー作は「耐えて勝つ方式」だったセガール大先生の『刑事ニコ/法の死角』
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還暦を迎えた今もアクション俳優として主演を張り続け、年々無敵振りを加速させているスティーヴン・セガール。そんな大先生にも苦難にまみれた時代があった!
ということで、今回はセガール大先生のデビュー作『刑事ニコ/法の死角』(1988)がお題。17歳で来日し、合気道(7段)を始めとする日本武道に加え中国武術も修得。アメリカ帰国後、その経験を武器に原案・製作・主演で作り上げたのが本作です。
日本で合気道の師範をしていた頃にCIAにスカウトされた主人公ニコは、ベトナム赴任中、同僚の非人道的な拷問に嫌気が差し退職。帰国後、シカゴで刑事に転職していたが、麻薬捜査中にC4爆弾を発見したせいで犯罪組織に命を狙われ親族が巻き添えに。しかも容疑者は証人保護プログラムで釈放。正義に燃え捜査を続けるニコだったが、相棒の女刑事だけでなくニコの家族(嫁役はシャロン・ストーン)の身にも組織の手が迫っていた......。
とまあ、大先生自身の来歴を下地にしたニコの設定のおかげで一時は本当に元CIA出身と勘違いされていたそうな。
米プロレス界ではこの手の勘違いはむしろ強力な「売り文句」につながり、新人をデビューさせる際に実際のキャリアと架空のキャリアを織り交ぜるなんてのは日常茶飯事です。
また、大先生といえば異常に密度の高い生え際ですが、本作の大先生の生え際は実に"ナチュラル"。「大先生も人の子だったんや」と軽く感動するハズ。
この点、プロレス界は清いのか過去に薄毛でイジられた○藤さんや秋○さん、海外ではカー○・○ングルさん(この人は話の都合で剃って、さらにヅラ装着したことも)などはすっきりすっぱりスキンヘッドに。ファンのモヤモヤ感をその薄毛と共に払拭してくれました。
そして何より、このデビュー作は"拷問に耐え抜き、最後の力を振り絞って敵を一網打尽にする"という、プロレスでいう人気ベビーフェイス選手の勝ちパターン「耐えて勝つ」方式なのです。
他のアクションスターならいざ知らず、(ほぼ)ノーダメージ完全無双が当たり前の大先生作品の中では異色の作品といえるでしょう。
まあ、全盛期のハルク・ホーガンよろしく結局ひとりで全滅させてるんですけども、生々しくも荒々しいアクションや、最後の関節技(形だけでいうとスタンディング・ドラゴンスリーパー)で敵ボスを葬った際の鬼気迫る姿には、真面目な話、スターになるべくしてなった人だとわかる凄みがあります。
ちなみにデビュー作とあって大先生の強味である合気道シーンからスタートしますが、「そーでしょー」「かかってきてー」など気の抜けた関西弁で弟子たちを指導する様はなかなか衝(笑)撃的。中盤には大先生よりも数段怪しい日本人女性の片言日本語とのコラボも炸裂するので、是非、吹き替えではなく原語での視聴をオススメします(※)。
(文/シングウヤスアキ)
※セガール作品では、本作以外でも大先生(共演者含む)による素敵な片言日本語が聞けますが、中でもファンタスティックな先生の片言が唸る『イントゥ・ザ・サン』は必見必聴の怪作です。