授賞式騒動はプロレスっぽいけど作品自体は意外と面白い『ウルトラ I LOVE YOU!』
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「最高」を決めるアカデミー賞と「最低」を決めるラジー賞。長いキャリアの中でそれぞれ受賞した俳優や映画関係者は何人かいますが、ラジー賞の最低主演女優賞&最低カップル賞を獲得した翌日、実話感動作『しあわせの隠れ場所』でアカデミー賞主演女優賞を獲り、史上初の同年(2009年)W受賞を果たしたのがサンドラ・ブロック女史(今年のアカデミー賞では『ゼロ・グラヴィティ』で主演女優賞にノミネートも、残念ながら落選に)。
滅多に当事者が出席しないラジー賞授賞式にサンドラ女史が出席した顛末は知られているけど、作品名自体は知られていなそうな『ウルトラ I LOVE YOU!』が今回のお題です。
サンドラ女史が演じたのはクロスワード・パズル作家のメアリー。パズル作家として博識だけど一度話しだすと止まらず、子供っぽいバタバタした動きや真っ赤なブーツがトレードマークという、いわゆる"イタイ女性"。
親の勧めでお見合いしたスティーブに一目惚れするや会ったその日から身体を求め、さらに社交辞令を好意と思い込んで、ニュース番組の取材カメラマンであるスティーブを追いかけ、ストーキングを開始します。
要点だけみるとラジー賞もさもありなんだけど、殴りたくなるようなイタさを醸しながらもどこか憎めないメアリーを演じ切ったサンドラ女史が最低女優とはおかしな話。
客観的にみるとお寒いコメントで嘲笑された時期もあるけど、そのイタさを寧ろ武器にして「青義軍」を率いた新日本プロレスの永田裕志的な微笑ましさといいましょうか。
ではストーリーはといえば、ストーキング過程でハリケーンに巻き込まれてほぼ無傷で助かるわ、救出作業が終わりかけた古い坑道に自分も落ちたら、なんだか感動的なエンディングに向かって行くわとなかなかのトンデモ具合。
WWEも真っ青のご都合展開で確かに最低作品・監督・脚本賞にノミネートされるのも納得ですが、要はアメリカンコメディの王道。それでいてスティーブとブチュっとして終わるようなこともないので好印象です。
そして前述通り、ラジー賞授賞式に自ら出席したサンドラ女史は、授賞式の観客向けに本作DVDを大量に持参し「来年の授賞式までに観ておいて!」と懐の広さを披露し喝采を浴びたそうな。自ら敵地に立つというのは何ともプロレス的なシチュエーションですが、批判を糧に変えてしまう強さは、WWEでアンチファンのブーイングを糧に成長したジョン・シナとも重なるかもしれません。
サンドラ女史の授賞式騒動はそれで終わらず、レプリカを渡されるハズが本物のひとつしかないトロフィーを持ち帰ってしまい、返却を要請される仕込みネタのような事件が話題に。
仕込みといえば、WWEにも「スラミー賞」という賞が存在し、最初期は別会場でアカデミー賞風授賞式を開催したことも。
司会と紹介者のコント風やりとりに、お約束の乱闘に加え、何故かホーガンや人気選手らが楽器担当となりマクマホン会長が歌い踊り狂うという謎過ぎる演出の末、最後には全員で合唱するという完全仕込みの茶番劇が映像として残っています。
(文/シングウヤスアキ)
※2009年度の最低作品、監督、脚本賞は『トランスフォーマー:リベンジ』。