○○が飛んだら凄いやろ?的な安易だけど力強いドヤ顔感が微かに光る珍作『殺人魚フライングキラー』
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『ジョーズ』(1975)のヒットを起源に低予算映画の代名詞として君臨する生物パニックモノ。元日活女優のプロデューサーが製作した『ピラニア』(1978)も『ジョーズ』フォロワーのひとつながら、2000年代になって3D映画としてリメイクされたしぶといシリーズですが、今回のお題は同シリーズ2作目『殺人魚フライングキラー』(1982/原題『Piranha II: Flying Killers』)。
軍が開発した生物兵器という前作の設定を進化させ、カリブ海のリゾート地に降って湧いた「空飛ぶピラニア」の脅威を描いた凡珍作。今や巨匠のジェームズ・キャメロン監督の長編デビュー作としても知られますが、色々あって(※)不本意な作品だった模様です。
パクつかれた若い男女の死体が見つかったのを機にビッチな美女たちやら犠牲者が続出。主人公たちが事態悪化を懸念してホテルが企画するパーティーの中止を要請するも当然決行。そしてパーティー当日、参加者たちが海岸で「魚、出てこいや」と煽ったら、なんか飛んできたよ? ボベェッ......という感じで『ジョーズ』が生んだテンプレ通り(ジョーズは遊泳禁止要請を無視して大惨事)の展開に。
プロレス界も何か流行れば便乗ギミックが生まれる業界とあって、80年代中頃、『マッドマックス2』の影響を受けたギミック「ロード・ウォリアーズ(WWF/WWEでは「リージョン・オブ・ドゥーム」)」が人気となるや、フェイスペイントを施したパワー系コンビが大繁殖。
ウォリアーズ獲得に失敗したWWFが生み出した「デモリッション(実力派)」「パワーズ・オブ・ペイン(完全劣化版)」や、各地の無名新人コンビが続出したことで世界的にテンプレ化しました。
近年におけるウォリアーズテンプレは「売り出し易いけど大成功しない」という点でも、低予算映画界における生物パニックモノの立ち位置と被ります。
それはともかくとして、羽の生えた巨大たい焼きみたいなお魚がニョニョニョと怪音を出しながらワサワサしているその惨状に別の意味で恐怖することになる本作ですが、最大の売りである後半の"フライング"シーンは、小鳥がさえずりながら羽ばたくような軽やかさで思わずニッコリ。
その点を踏まえると本作は、ウォリアーズテンプレ亜種といえる「ザ・ヘッドハンターズ」が符合。本作ロケ地ジャマイカにほど近いプエルトリコ出身の黒人双子コンビで、ソツのない試合巧者として90年代の日本インディ・シーンで活躍したコンビですが、特に売りだったのが、デブなのにムーンサルトプレス(コーナーポストからバク宙してリング上に倒れている相手にボディプレスを浴びせる技)を軽やかにこなした点。
この「デブが飛んだら凄いやろ」という安直ながら絶対的なセールスポイントは、本作の売りである「ピラニアが飛んだら凄いやろ」というドヤ顔感と重ならなくもありません。まあ、ピラニアが飛ぶシーンは上映時間90分間の内、3分もないんですけども!
(文/シングウヤスアキ)
※エグゼクティブ・プロデューサーの横槍でクビにされ、編集したフィルムも廃棄される屈辱を受けた挙句、契約の都合で名前が残ってしまい当時ボロクソに叩かれたというキャメロンさんですが、その後『ターミネーター』の大ヒットで雪辱を果たして一躍人気監督に。この辺りはWCWでの失敗後、WWE(当時WWF)で一世を風靡することになるスティーブ・オースチンやケビン・ナッシュらと重なります。