メジャーから落ちぶれたレスラーがインディ団体で再起に成功する的な『サボテン・ブラザーズ』
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珍作まみれの本コラムですがたまにはまともな作品を! ということで、今回取り上げるのは日本では高評価な『サボテン・ブラザーズ』(1986)。『花嫁のパパ』シリーズでも知られるスティーブ・マーチン、マーティン・ショート、30代の頃(つまり本作出演時)はウィル・フェレル(※)にクリソツだったチェビー・チェイスという『サタデー・ナイト・ライブ』出身者によるコメディ作品です。
時は1916年。リストラされた西部劇ヒーロー俳優トリオ「スリー・アミーゴス(以下、アミーゴス)」が、メキシコの農村から送られてきた電報を「現地の悪役俳優エル・アポとの映画出演依頼」と勘違い。ところがその電報は料金を抑えるために文字を削りまくった結果、送り主こそが彼らを現実のヒーローと勘違いして本物の盗賊退治を依頼したという事実が抜け落ちていた・・・てな感じの勘違いが勘違いを呼ぶドタバタ活劇。
序盤でアミーゴスが「出演映画の格は落とさない」などと高望みして映画会社からクビ宣告。身ぐるみを剥がされる流れはいかにもプロレス的。
人気レスラーも下り坂となれば、若手選手のお守り、あるいは負け役、さらには減給といった条件を飲まなければ当然解雇(戦力外で無条件解雇も)。高価な衣装なんかは団体に徴収される場合もあり、以前ネタにした「マックス・ムーン」がこのパターン(人気は出てないけど!)。
農村到着後、アミーゴスが撮影と勘違いして決め台詞と共に大立ち回りし、困惑したエル・アポの手下を撤収させたことで農民達にリアルヒーローと勘違いされる展開もプロレスでよくある話。
WWEやWCWの元人気者ともなれば、インディ系団体では大物扱い。ファン層が先鋭化する分、ちょいと決め台詞をキメるだけでも世紀の大スターとばかりに持て囃してくれる純真なファンもいるワケです。
しかし、アミーゴスがエル・アポとの初対峙に銃撃されて現実に気付かされるように、元人気レスラーも観客が100人にも満たない会場での試合が続けば、全盛時代の持ちネタをやった際の薄い反応によって現実を思い知らされることでしょう。
WWE在籍中、リンゴをかじって食べカスを相手に飛ばすネタで人気だったカリートが、公民館みたいな会場でそのネタをやってる動画を観たりすると、何だか物悲しいものでした(やたらその手の会場での動画が見つかるので、本人は弱小団体巡りが好きなのかも)。
ハリウッドに帰っても職も金も家もないアミーゴスは現実に向き合って奮起するや事態は好転。さらわれた美女カルメンを救出し、そして村民と協力してエル・アポを倒し、本物のヒーローになります。
止む無くドサ回りを続けるレスラーも多いですが、欧米のインディ団体や日本の大手団体で再評価されれば、再びWWEにカムバックすることもあり(最近では全日・新日を経由したテンサイ)、めぐり合わせと当人の努力次第で好転するという意味でも、本作は「都落ちレスラーの再起劇」にも通じます。
ちなみにコメディとしてはベタな部類なので意図的なチープさも含め、ネタを予想しつつニヤリと楽しむ部類の作品かも。
(文/シングウヤスアキ)
※フェレルは本作をオマージュしたような全篇スペイン語の主演作『俺たちサボテン・アミーゴ』で、本作を彷彿とさせるあからさまな書割りの荒野セットシーンを披露しています。